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「『成院』と『戒院』」10

2020年03月17日 | T.B.2010年

「…………」

『成院』は取り押さえた砂一族を見る。

どうなるかと思っていたが、
あくまで偵察部隊と言った所か。

『成院』は
ふう、と静かに息を吐く。

「あたしは、」

ぽつり、と
砂一族の女は言う。

「みんな程強くは無いの」

「抵抗しても無駄だぞ」

「出来ないならば、
 出来ないままで良いって訳じゃないの。
 何か役割をしなくては」

「………観念しろ、
 もうすぐ俺達の戻りが遅い、と
 門番も駆けつけるはずだ」

だが、彼女は淡々と話し続ける。

「役立たずではあったけど、
 次期大師の命を貰えたら
 今までの分も挽回出来ると思うのよ」

チリ、と
静電気が起こったときの様な
小さな違和感。

「?」

「だから、ねぇ。
 こうするしか無いわよね」

大樹がこちらに駆け寄ってくる。

ふと砂一族の体が淡く光り出す。

昔、こう言う光を見たことがある。

まだ若い頃。
敵対する砂一族が仕掛けた魔法。
【地点】と呼ばれる術。

気をつけろよ、と
自分を指導した東一族は言っていた。

そこを踏むと、地面の下から
爆発が起きる。
ひとたまりも無いぞ。と。

辺りが強い光に包まれる。


「………大樹!!離れろ!!」


一瞬、意識が飛ぶ。

走馬燈のように夢を見る。
『成院』 と名乗り始めた頃に
毎日のように見ていた夢。

成院、がそこに居て
何も言わずに自分を見ている。

髪型から何まで真似た戒院は、
以前より見分けが付かなくなった
双子の片割れにこう叫ぶ。

「無理だ」

「お前の代わりなんて出来ない」

「どうして、こんな事になった」

「なぜ俺を選んだ」

「疲れた。もう、無理だ」


「俺は、戒院のままで居たかった」


最後にいつもこう言う戒院に
成院は申し訳無さそうな
困った笑みを見せている。

何度も何度も見た夢。

でも今回は違う。

先日、うなされて見た夢。
起きたらすっかり忘れてしまっていたが。

ああ、あの時もこの夢を見たのだ、と
そう思い出す。

いつもは口を開かず
ただ黙って戒院の言葉を聞いている成院が
こう、返してくる。

「疲れただろう」

「戒院はよく頑張った」

「もう、良いんじゃないか、
 皆に話して分かって貰おう」

成長した自分とは違い、
青年の姿のまま
成院は言う。


「お前は戒院だと」


無理だ。

戒院―――『成院』は首を振る。

もう今さら、
お前に名前は返せないんだ成院。

離れるわけにはいかない。
失うわけにはいかない。

だから、もう。



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