「私が生け贄じゃないって……?」
カオリはアキラを見る。
「兄様、それはどう云う」
「マユリが、生け贄に選ばれた」
カオリは目を見開く。
「マユリ、が?」
アキラは頷く。
「なぜ……」
「生け贄、と云う存在が必要だからだ」
「そんな……」
カオリは震える。
「私はいったい、どうすれば……」
「カオリ」
「マユリは、私のせいで、」
「カオリ」
アキラは、カオリを制止する。
「よく聞け」
「……兄様」
「生け贄は、今後必要なくなる」
「…………?」
カオリは訳が判らないと、顔を上げる。
「それは、どう云う……」
「生け贄の存在自体が無意味だからだ」
「でも、」
「今回の災いは、命を犠牲にして収まることじゃない」
「なら、マユリは」
「マユリも助かる」
「助かる?」
「そう」
アキラは云う。
「だから一度、山へ帰ろう」
カオリを見る。
「ここにいれば、あの海一族にも迷惑が掛かる」
カオリは、閉められた扉を見る。
そうだ。
このまま、この海一族の村にいれば、
トーマにもあらぬ疑いをかけられてしまう。
カオリは、小さく頷く。
と、
ふと、アキラは耳を澄ます。
鳴き声。
鳥の鳴き声が聞こえる。
アキラは窓を開け、外を見る。
空に、アキラの鳥。
「どうした」
カオリも窓から顔を出す。
「兄様?」
アキラは、山を見る。
山一族の村がある方向。
「あれは!?」
「煙?」
山から煙が上がっている。
伝達の煙ではない。
黒い、煙。
「何だ?」
「兄様、まさか」
山一族の村が
燃えている。
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