「麻樹医師(せんせい)」
成院は東一族の病院を訪ねる。
医師はいつも通り診察室にいる。
「決めたのか」
医師の言葉に成院は頷く。
「敵の一族だ、下手をすれば殺されるかもしれない」
「でも、もう、それしか可能性はないのでしょう」
それに、この提案をしたのはあなただ、と、冗談めかして成院は言う。
「……ならば、北一族の村を経由して行くといい。
あそこには西一族も出入りする。
あるいはそこで接触できるかもしれない」
危険だと言いながらも、医師は成院に教える。
うまく西一族の村に辿り着く手段。
そして、恐らくその薬とされる物の名称。
成院の事を見越して調べていたのかもしれない。
「成院」
「?」
「西一族の村は遠いな」
医師はどこか遠くを見つめる。
「もし争いが起こっていなければ、西一族の村はもっと近かっただろう」
距離ではなく、他の意味で。
「簡単に行き来ができる程、交流が進んでいれば
薬も簡単に手に入ったかもしれない」
成院は口ごもる。
そう。
医師の娘も、伝染病の犠牲者の1人だった。
「西一族の村はどんな所なのだろうな」
もしかしたら、ではなく、
医師も西一族の村に行こうとしたのかもしれない。
娘のために。
「……見て、来ますよ」
成院は言う。
「どんな所か見てきて、帰ったらお伝えします」
「医者がこんなことを言うのはおかしいが」
医師は言う。
「奇跡を信じているよ」
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