TOBA-BLOG 別館

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「海一族と山一族」12

2016年08月23日 | T.B.1998年

「カオリ」

トーマがドアの前で声を掛けると
足音が近づき、内側から扉が開けられる。

「歩いて大丈夫なのか?」
「ええ」
「あまり、無理せずに」

トーマは持ってきた飲み物を
ベッドサイドのテーブルに置くと
もう片方に抱えていた箱から
湿布を取り出す。

カオリの手を取ると
包帯を解き、湿布を貼り替える。

「跡が残るかもしれないな」

川で流された時に
あちこちぶつけたのだろう。
アザはまだ大きく残っている。

「命があるだけでも、充分よ」

気にしないで、と
そういうカオリに
トーマは尋ねる。

「カオリ、一つ聞いて良い?」
「なに?」
「山一族にはカオリという名前の人は
 沢山いるのかな」
「どうかしら、
 私一人だけだと思うけど」
「そう」

トーマは、包帯を巻き終え、
カオリに向き直る。

「今から話す事。
 もし間違っていたら忘れて欲しい」
「……トーマ?」

「数十年に一度。
 どこからともなく災いが訪れる」

「そんな話、
 初めて聞いたわ」
「村人には知らされていない、
 ごく少数の人にしか
 引き継がれない話だから」
「じゃあなぜ
 トーマはそれを知っているの?」

「俺が、その
 ごく少数のうち一人
 って言ったらどうする?」

話を戻すよ、と
トーマは言う。

「数十年に一度、
 海と山に異変が起こる。
 海一族と山一族は
 交互に生け贄を差し出すことで
 その難を鎮めてきた、」

「そしてまた、異変が起きている」

カオリは続く言葉を避けるように
顔を伏せ、きつく目を閉じる。

「次に生け贄を出すのは
 山一族だ」

包帯を巻き終えたが
トーマはカオリの手を離さない。


「それは君のことだろう」


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