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「未央子と陸院と南一族の村」1

2020年04月28日 | T.B.2017年
未央子(みおこ)は身支度を始める。

先日まで、上着を羽織っていたが、
少しだけ気温が暖かくなった。

「ううん」

このままでもいけるだろうか、と
暫く考える。

「まぁ、寒いよりは
 暖かい方がいいか」

暑ければ脱げば良いのだし、と
羽織りを手に取り、外に出る。

季節の花が芽吹き始めて、
今までと違う風の薫り、
鳥の鳴き声
若葉の芽吹き。

いつもならそれだけで
何となく気持ちが弾んだりもする。
けれど、
今はそう言う気分にはなれない。

「はーあ」

ため息。

未央子自身の事では無いが
村で、憂鬱な事が続いた。

それで、
顔見知りが居なくなって
少しごちゃごちゃとした事が起きて、

でも、

時間が経てば
みんないつも通りの生活。
いつも通りの日常。

「………」

こうやって気分が沈んでいるのは
自分だけなのだろうか。

「………」

それとも
未央子がまだ未熟なだけで
皆そんな事を顔に出さないだけ?

「うん?」

そうやって考え事をして歩いていたら
何か通り過ぎた。

ふと、視界の影に入った物が気になって
未央子は振り返る。

「………よう」
「うわ!!!」
「うわって、おまえ」

東一族にあるまじき白髪に、
宗主の家系しか持たない、お伴の動物。
彼の場合は蛇。
未央子は蛇も彼も少し苦手。

いつもなら遠くからでも目に着くのに。

「陸院(りくいん)じゃない」

「まあ、お前僕の事苦手だろ
 知ってるけどさぁ」

うわ、は無いだろう、と
陸院は拗ねる。

「あんた、なんでこんな所に居るのよ」
「居ちゃ悪いか」
「だって」

それで、未央子は気がつく。
いつもなら威張り散らして偉そうなのに、
今は何だか覇気が無く、
おまけに猫背で丸まっている。

「どうしたのよ。
 格好だって、それ北一族の服?」

だから通り過ぎてしまったのもある。

「………出掛けようかと思って」
「ふうん?」

そうかなあ、と
未央子は首を捻る。

普通、村の外に出掛ける時でも
いつも通り、一族に伝わる服で出掛ける。

「まあ、でも」

未央子は陸院の周りをぐるりと一周する。
確かに村の外に出るのならば、
東一族なのに白髪というのは目立つのだろう。

「そういう格好していると
 他一族の人みたいよ」

「………っ!!」

「な、なによ」

陸院が険しい表情を見せたので
未央子は少し後ずさる。

「いや、なんでもない」

あれ、珍しい、と驚く。
いつもは失礼だぞ、とか
もっと突っかかってくるくせに。

そうか、と気がつく。

「あんたの所も
 大変だったもの、ね」

「知っているのか!?」
「きゃっ」

陸院は未央子の腕を掴む。

「陸院、なに」

「どこまで知ってるんだ。
 父親に聞いたな!?
 僕が、本当は―――」

「離してっ!!」

未央子は声を上げる。

あ、と陸院はその手を離す。

「ごめ」

「知らないわよ、何も。
 宗主のお家で何かごたごたがあったってぐらい」

「………だってお前、父親は」

「お父さ―――父様が言うわけ無いじゃない。
 父様は絶対何も言わない。
 村のみんなが知っている事しか私は知らない」

未央子の父親は、村の医師を務めている。
宗主の家に出入りをすることも多い。

それでも。

「私には何も言わないもの。
 守秘義務、とかちゃんとしているし」

「そう、か」

陸院はほっとしたような表情を見せる。

彼も何かあったのだろう。
家の事で動揺しているに違いない。
腕を捕まれたことは
まあ、流してやろう、と受け流す。

「……それで、どこに行くの」

「南一族の村」

「ふうん。いいんじゃない。
 今収穫の季節でしょう、
 きっと賑やかだわ」

「で」
「で?」

「ええっと」

普段、偉そうで
ずばずばと物を言う彼にしては
歯切れが悪い。

「?」

陸院は、うん、と覚悟を決めて
未央子に言う。

「あ~、その、
 一緒に行かないか」

「え」

何それ、とか、何でとか、
思う以前に答えが口から漏れる。

「えぇえ、嫌よ」


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