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「未央子と陸院と南一族の村」2

2020年05月05日 | T.B.2017年
「即答は失礼だろお前」

酷い、と陸院は半べそをかく。

「酷くないわよ、だいたいねえ」

陸院とは、
友達でもなければ
もちろん恋人でも無い。

宗主の息子と、医師の娘。
立場も違う。

あえて言うならば、同年代の顔見知り?

「赤の他人同士、
 二人で出掛ける訳ないわよね」
「他人っ!?」

動きを止める陸院に
お伴の蛇が『元気出して』とすり寄る。

「お前、辰樹(たつき)が同じ事言ったら
 行くだろ、絶対」
「行くけど」
「ほらーーーー!!」

「辰樹は従兄弟だし、
 普段から仲良いし」

あと、見張っておかないと少し心配。

未央子の方が遅く生まれているけれど、
弟みたいなものだ。

「そう、だよな」

行くわけないよな、と
陸院は肩を落とす。

「誰か、一緒に来て欲しかったんだ」

あまりにも、沈み込んでいるので
未央子はそれじゃあ、と言えなかった。

「あんた、連れて行こうと思えば
 誰だって居るじゃない」

なにせ宗主の息子。
家の者とか、簡単に見つかるはずだ。

「………」

無言で陸院は首を横に振る。

「明院(めいいん)とか
 仲良いでしょう」

同じ宗主の血筋。
よくつるんでいるのを見かける。

再び陸院は首を横に振る。

「明院、は。
 俺が宗主の息子だから、良くしてくれただけだ」

「そんな事言ったら、
 明院怒ると思うけどなあ」

「………うん」

でも、今は、と陸院は言う。

だいたい、それがおかしい。
宗主の息子が一人で
供も付けずに他一族の村に出掛けるとか。

「行かなくちゃいけなくて」
「うん」
「それでも、なかなか足が向かなくて」
「そういう事あるわよ」

「………未央子が」

「え?」

「未央子が着いてきてくれたら、
 行けるかなって、思ったんだ」

「なにそれ」

「いいんだ。
 うん、一人で頑張らなきゃ」

悪かった、と
陸院は背を向ける。

まるで、今はひとりぼっちだと言うように。

いつもはもっと
偉そうだし、威張っているし、
もう少し引き下がったりするでしょうに。

「着いて行くだけなら」

だから、
思わず言葉に出してしまっていた。

迂闊だった気もする。
だって、陸院は陸院なのだから。

「南一族の村まで送っていくだけよ。
 そうしたら、私、帰るけど、それで良い?」

驚いて、陸院が振り返る。

あ。

いつも意地悪そうに笑う所しか
見たことが無かったけれど、
そういう顔もするのね、と未央子は思う。

「………ありがと、未央子!!」

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