いつも通り。
やることを終えた彼は、屋敷へと向かう。
途中、先ほど彼女と別れた場所を通る。
彼女は、いない。
彼は、屋敷へと歩き出す。
何だろう。
屋敷近くが、慌ただしい。
ふと、
彼は、後ろを見る。
誰かが、いる。
ような気がした。
けれども、そこに、誰もいない。
おかしい。
何かが、おかしい。
彼は、首を傾げる。
従弟が、屋敷から走ってくる。
彼の姿を見て、従弟が声を上げる。
「どこに行っていた!」
「いったい何が、」
「砂一族の諜報員だ!」
彼は、目を見開く。
「砂の諜報員が、宗主様に毒を使おうとしたんだよ!」
「砂の?」
彼が訊く。
「捕らえたのか」
「判らない」
従弟が云う。
「俺も話を聞いたばかりだ」
「いつから入り込んでいる」
「それも、判らない。ただ」
従弟が、彼を見る。
「この屋敷で働いていた、使用人らしい」
「使用人が?」
従弟が頷く。
「使用人はたくさんいるから、俺には、誰なのか判らない」
「そうか。……逃げたのか?」
「今、追っている」
「なら」
「もう、捕らえているかも」
従弟は、彼を見る。
「お前も追え」
「判ってる」
「お前の方が、専門だからな」
従弟が云う。
「それと、薬自体を調達した砂一族も入り込んでるはずだ」
彼が頷く。
「包囲網は」
「張ってある」
従弟は武器を握りなおす。
「宗主様も、向かうと云っていた」
「そうか」
「使用人も、調達した砂も、猶予はない」
つまり
すぐに、息の根を止めても構わないと。
彼は、再度頷く。
歩き出す。
「あ、待て」
従弟が彼を呼び止める。
「思い出した」
彼が立ち止まる。
「その使用人の父親は、確か、砂に情報を流して殺されている」
従弟が云う。
「表向きには知られてないけれど」
彼は、思わず、振り返る。
従弟を見る。
「そう。確か、目に病がある女だ」
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