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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と規子」10

2015年10月20日 | T.B.1962年

身支度を整えて
ハヤト達は山をくだり始める。

カナタは、やはり足を痛めていたので
彼を馬に乗せ
ハヤトと規子は横を歩く。

「僕は結局何もしてないな」

カナタが言う。

「それを言うなら俺もだ。
 一番活躍したのは規子だろう」

「私は最期に手助けしただけ。
 それに皆で倒した獲物でしょう?」

西一族ではそうよ。
誰がとは言わない、
狩りを行った班の功績になるの、と
規子は言う。

「ウチも集団の狩りを取り入れるべきかな」

なぁ、と
ハヤトはカナタに言う。

「……それでも今回の件はどうかと思う。
 僕が言えた話じゃないが、
 女性が狩りなんて危ないじゃないか」

「心配してくれてありがとう。
 それが山一族のしきたりなら
 次からはそれに従うわ」

でも、と規子は言う。

「これは、私にも関係のある事だったでしょう?」

ハヤトとカナタは思わず顔を見合わせる。
本人に何処まで話が伝わっているのか分からないが
嫁にやる、やらないだの
まるで物のような言い方をしてしまい
とても気まずい。

「二人が出かけたって聞いて
 追いかけたんだけど
 馬は得意じゃなくて」

途中から歩いて来たの、と
規子は言う。
そういえば、西一族の狩りの仕方はそうだったな、と
ハヤトはかつてを思い出す。

「私の事なのに
 他の誰かが危険な場所に行くのよ。
 見ているだけなんて」

ねぇ、と言われて
威勢を張っていたカナタだが
頭を垂れて身を震わせる。 

「キコ」

カナタが言う。

「アサノ・ハ・ハラ。
 よくハラ家の使いとして
 ウチに来る子だ」

規子は頷く。

「知っているわ、素直ないい子」

「僕は彼女を妻として迎えたい。
 それが君を拒んできた理由だ。
 卑怯なことをして申し訳なかったと思う」

「ハ・ハラ、か」

なるほど、とハヤトが言う。

「どういう事なの?」

「うちの一族は、まず三つの家系があるが
 それとはまた別にイロハで優劣順位が決まっていてな。
 イとハだと身分違いも良い所だな」
「結婚は難しいという事?」
「形式上は可能だ。
 ただ、そこを気にする人は多いな。
 特に今の族長様は厳しい人だからな」

「爺様は認めないだろうが
 それでも、認めて貰うしかない」

知っていたわ、と
規子が言う。

「身分の事は分からなかったけど
 知っていた。
 ステキだなって思っていたのよ」

2人の会話を、ハヤトは黙って聞く。

「身分違いの所に嫁ぐなんて
 味方はきっとあなたしか居ないわ
 大事にしてあげて」

それは、おそらく
敵対する村に嫁いで来た規子にも言えること。
カナタが規子にはしてあげられなかったこと。

「キコ、
 申し訳ない。
 君に落ち度がない事はきちんと説明する。
 なんとか、西に帰れるように
 爺様にも説明を」

「ありがとう」

言いながらも規子は分かっている。
帰る所なんてない。
協定が崩れることになるからだ。

これから、どうなるのだろう。
また違う人の所に嫁ぐ事になるのだろうか。
西一族の規子を喜んで貰ってくれる人なんて

「なぁ、だから言ってるだろう」

会話を黙って聞いていたハヤトが
急に声を上げる。

「うちに来いよ。
 お前みたいなやつは好きだ、って
 前に言ったの覚えてるか?」

「……っ!!」
「そんな事言っていたのかハヤト」

「なぁなぁ?
 どうなんだ?」

「覚えて無いわよ!!!!」

規子は早足で先に進む。
何だ怒らせたかな?と
ハヤトは首をひねる。

「ハヤト、
 なぜ自分が選ばれたのかって
 さっき僕に尋ねただろう?」

カナタが少し楽しそうに言う。

「ああ」

狩りの騒ぎでうやむやになったが
そんな話をしていたのだった。

「キコが言っていたんだ
 以前、山一族に会ったことがあるって。
 親しみが持てたと言っていた
 だから、嫁ぐ話を受け入れることが出来たと」

カナタはそっとハヤトに教える。

「ハヤト、
 以前牝鹿を狩ってきた事があっただろう。
 その時、西一族と分けた物だと言っていたな」

自分だって適当に人選した訳じゃない、と
カナタが言う。

「だから、その山一族とはお前のことだと思ったよ。
 違ったか?」

「そうか、覚えていたのか」

ハヤトは笑う。
三人は山を下っていく。


むかしむかし、山一族に嫁いだ西一族の話。