TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「晴子と成院」4

2015年06月23日 | T.B.2000年

「あぁ、もうこんな時間」

釜をのぞき込んで
晴子は少し焦る。

「少し早いけど大丈夫よね」

しばらく、バタバタとした後、
釜の中の焼菓子の半分を温かいまま箱に詰める。

残りの半分は皿の上に並べる。
家族の分だ。

そして慌てて家を後にする。

「もう、晴子、遅い!!」
「ごめん緑子、
 これで我慢して」

晴子は緑子の家に滑り込むと
先程の焼菓子を差し出す。

「そこ、座って
 お茶入れるから!!」

ありがとう、と
座って晴子は道具を取り出す。
今日は緑子の家で縫い物をする約束だった。
東一族の女性の手仕事の一つだ。

お茶を飲んで、
晴子の準備した焼菓子と
緑子が作った果物の砂糖漬けを食べながら
話しながら、縫い物を続ける。

時々話に夢中になって手が止まり
そうしているうちに
晴子は先日のことを
ぽつぽつと話し始める。

「ねぇ、緑子
 成院ちょっと変じゃない?」
「うーん、そう?」
「なんか前より
 他人行儀な気がする」
「例えば?」

「会うの止めよう、って」

「あんたそれ、
 戒院にも言われてたね」
「うん、でも、あれは」

戒院が生きて居た頃の事。
何が原因で彼から嫌われたのだろう、と
それが分からず凄く悲しかった。

自分の病から遠ざける為だったと
今では分かる。

「でもねぇ、
 複雑だと思うよ
 弟の彼女でしょう?」

「やっぱり、嫌かな」

うーん、と
緑子も作業を止める。

「嫌というか
 自分は何なのだろう、って思っているんじゃない。
 弟の代わりかなって?」
「そんなつもりじゃないの」

戒院の話を
彼をよく知る人としたかった。
そして、
友人として、成院の事が心配だった。

けれど。

「私、考え無し、だったのかな」

「まぁ、ただの兄弟だったら、
 違っていただろうけど
 ―――あの2人、同じ顔だから」

そこが、ややこしいのよ、と
緑子が言う。

「晴子以外の他の事でも、
 戒院と重ねて見られるってのはあるんじゃない。
 双子って、そういう所、大変ね」

「……そうね」

だから成院は
医師になろうとしたんだろうか。
晴子は思わずため息をつきそうになって
取り消す様にお茶を飲む。

先日成院と飲んだお茶だ。

「少ししか手を付けてなかったな」

成院とは、どんな冗談でも言い合える仲だった。
それも、
戒院が間で繋いでくれていたのかもしれない。

「成院の方も
 まだ気持ちの整理がついていないんじゃない?」
「一番近い、家族だものね」
「しばらく様子を見て居なよ。
 気にし過ぎちゃダメよ」

ありがとう、と
晴子は緑子に言う。

「気もそぞろじゃ私も困るのよ。
 ねぇ晴子、この焼菓子、半生なんだけど」

「ええーーっ!!??」

晴子は思わず立ち上がる。


NEXT