西一族の村では、雨が続いている。
この時期はいつもそうだ。
久しぶりの晴れ間も、長くは続かない。
曇り空の下。
彼女はぬかるむ道を歩く。
ゆっくりと、歩く。
「おいおい!」
彼女の後ろから、突然、声が投げかけられる。
「お前、いつもふらふらしてるな!」
そう云いながら、誰かが、彼女を追い越す。
彼女は、その誰かを見る。
そこに、前村長の孫。
前村長の孫は、西一族でも、生粋の西一族である。
その証に、銀髪を有する。
「狩りに行かないやつは、楽でいいよな!」
前村長の孫に一瞥され、彼女は目を細める。
「そのくせ肉を食うなんて、お前何様だよ」
「やめなよ!」
見ると、その後ろに、もうひとりいる。
現補佐役の娘。
紅葉(もみじ)。
「……この子は、狩りに行けないのよ」
紅葉が、前村長の孫に云う。
そして、ちらりと彼女を見る。
「知ってるよ」
「なら」
「でも、さ。行く努力はすべきだろ」
「やめて!」
前村長の孫は目を細める。
背を向け、歩き出す。
「まったく、もう!」
紅葉は、彼女に向き直る。
「ごめんね」
「何が」
彼女は、紅葉を見る。
「えっと、」
紅葉は、目をそらす。
悪気はないのだろう。
けど
彼女の目付きは、きつい。
「……私たち、広場へ行くの」
「そう」
「狩りの招集があって」
「…………」
「一緒に、行く?」
「なぜ?」
彼女が云う。
「私を、笑いものにするため?」
「え?」
紅葉は慌てる。
「違うよ!」
「なら、なぜ?」
「それは、……」
紅葉は、少し考える。
考えて、云う。
「ほら。狩りの準備の手伝いとか、出来るでしょ」
「出来ない」
「紅葉!」
前村長の孫が振り返り、紅葉を呼ぶ。
「早く行こうぜ!」
「あ、うん」
紅葉は、前村長の孫を見て、彼女を見る。
迷って、
前村長の孫を追いかける。
彼女は動かない。
ふたりの姿が見えなくなると、彼女は、足下の水たまりを見る。
そこに映る、自身の姿を見る。
どこからどう見ても、西一族。
なのに、彼女は、狩りに参加したことが、ない。
――彼女は、足が悪い。
NEXT