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「小夜子と天院」14

2015年03月20日 | T.B.2017年

「体調でも悪い?」

 未央子が、小夜子をのぞき込む。
 糸を紡いでいた小夜子は、小さく頷く。
「ちょっと休んで」

 未央子は、水を差し出す。
 小夜子は、それを受け取る。

 そして、空を見る。

 なんてわけじゃない。

 ただ、空を見る。

「いったい、何があったの?」
 未央子も、小夜子の隣に坐る。
 小夜子は首を振る。
「ひょっとして、ご子息様?」

 小夜子は何も云わない。

「あんな立場じゃなかったら、私が怒ってやるわ」

「……院様」

「え?」

 未央子は小夜子を見る。

「未央子は、最近、あの人を見た?」
「最近?」
 未央子は首を傾げる。
「見ないよ」
「……そう」
「ずっと前のあの日、見たっきりだよ」

 あの日。

 小夜子が、彼の名まえを知った日のことだ。

「云ったじゃない。あの人、あまり姿を見せないって」
 未央子が云う。
「あの人によく会うあなたが、不思議だわ」
「そうなの?」
「そうよ」

 未央子が訊く。
「なぜ、あの人を気にするの?」

 小夜子は答えない。

 小夜子は、空を見る。

 おそらく、先ほどと変わらない、空。

「小夜子?」

「……いつも会ってるから、かな」

「…………?」

 未央子が云う。

「もうひとつ、気になること訊いてもいい?」
「何?」
「小夜子、装飾品をしてないけど……」

「ああ」

 小夜子が答える。

「なくしちゃったの」

「なくした!?」

 未央子が驚く。

「なくしたって!」
「なくしたの」
「どうすれば、なくなるのよ!?」

 未央子は立ち上がる。

「思い当たるところを教えて! 探すから!」
「いいの」

 慌てる未央子を尻目に、小夜子は坐ったまま、淡々と云う。

「もう見つからないと思う」

「でも、小夜子のご両親が作ってくれた、」

「確かに、父さんと母さんの形見だったけれど」

 小夜子は云いながら、旧びた布を取り出す。
 それを、開く。

 そこに

「こっちが、父さんと母さんの本当の形見だから」

 ――焼け焦げた、ひとつの装飾品。

「それは、」
「あの火事のあと、誰だったか見つけてくれたの」
 小夜子が云う。
「父さんと母さん、どちらのものか判らないんだけど……」

 未央子は、小夜子の隣に坐り直す。

「こうして形見は残っているから、私の装飾品はいいの」
「小夜子……」
「ありがとう、未央子」

 小夜子は笑う。

「誰にも見せたことなかったの」

 あの人にも、ね。

 小夜子が云う。

「内緒だよ?」



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