TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「希と燕」1

2015年01月27日 | T.B.1961年

西一族と敵対する一族は二つ。

湖を挟んで東一族。
そして、狩り場を挟んで山一族。

その山一族の事で、と村長に呼ばれたのが数時間前。
まさか偵察に行けと言われるのだろうか、
彼は不安を抱えながら村長の家に向かう。

聞かされたのは思ってもみない話だった。
さほど対立が酷くない山一族と和平の協定を結ぶという。

「それは、期間限定ですか?」
彼は村長に尋ねる。
「そうなるだろう。いつ均衡が崩れるかは分からないが
 東一族との諍いが終わるまではなんとか持ちこたえたい」
村長は静かに言う。
「・・・・・・東一族」
オウム返しに言葉を拾い、彼は呟く。
つまり、山一族との争いを避けねばならないほど、
東一族との対立が厳しい状況になってきていると言うことだ。

「希(のぞみ)」

村長の傍らにいた補佐役が彼の名を呼ぶ。
「これはまだ村人には伝わっていない話だ。
 村長から直々に公表があるまでは
 誰にも言ってはいけないぞ」

彼―――希は首をひねる。

「それじゃあ、なぜ俺に言うのですか?」

希はただの村人だ。
狩りの腕には自信があるが、
だからと言って村一番というわけではなく
村の中心を担う程の立場でもない。

そんな大事な話を今、自分が聞いている理由が掴めない。

「協定がただの口約束で守られると思うか?」

村長が静かに問う。
首を横に振りながら
嫌な予感だ、と、希は思う。

「人質を出すことになった。
 これでも確証は出来ないが、無いよりはずいぶんましになるだろう」

「村長」

補佐役が言う。

「その言い方を選んで下さい。
 花嫁です」

「はなよめ?」

村長の代わりに補佐役が答える。

「お互いの一族から年頃の娘を嫁に出すことになった。
 誠意の証というやつだな」

「その嫁を、俺にもらえと言うのですか?」

「いや」

違うのならば、
自分じゃない。ならば。

「その役目はお前の弟が受け持つことになった」


希は家路につきながら一人悶々と考える。

自分ではない。
そうなったときに弟がその役目だろうと、
どこか薄々感づいていた。

弟はこの西一族の村では異端とされている。
黒い瞳を持っているから。

西一族であるのならば白色系の髪と瞳を持つ。それが常識だ。
何かの偶然が重なって弟はそんな風に生まれてきたのだろう。

よりにもよって、黒い色。
他の色であればまだ違っただろうに、
黒い瞳は―――東一族の色だ。

だから、いつも弟が受ける扱いはそんな物だ。

それはいけない。
正しいことではない、と、希は思う。

それでも。



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