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「希と燕」2

2015年02月03日 | T.B.1961年

その日の狩りを終えて、希は集合場所である村の広場に戻る。

定期的に行われる狩りは、西一族の風習の一つだ。
でも、今は東一族との諍いもあり、
実力のある大人達は、湖近辺の警護にあたっている。

狩りに行けるのは
経験の少ない若者ばかりとなる。
当然希達より幼い子どもも多い。

ここ最近は希が狩りの総合的なまとめ役となっている。
だが、彼の班は獲物を深追いしすぎて
予定していた時間に遅れてしまった。

希は急いで招集をかける。

「すまない。
 みんな待たせたな」

そんな状況の中で
まとめ役である年長者が帰ってこなければ
不安も増していただろう。

「じゃあ、各班の班長は成果を報告して、
 ケガをしている者は居ないか?」

悪い雰囲気を取り払わなくては、と
明るい声を上げて言う。

やがて、それぞれの班が報告を終え
希は一息つく。

「あとはまとめておくから
 少し休んで来なよ」

今日は同じ班で狩りに出かけた、規子(きこ)が
ほら、と手を伸ばす。

申し訳ないと思いながらも
希は、よろしく、と報告のメモを渡す。

「今日はいつもより疲れたでしょう。
 みんなで早く終わらせて帰りましょう」

「ありがとう、
 一息ついたらすぐ戻るから」

希は立ち上がり、
広場の隅にある給水所に向かう。
ふと、振り返ると
規子は早速結果をまとめ始めている。

助かった、と希は息をつく。

西一族は女性も当たり前に狩りに参加する。
そんな中でも幼馴染の規子は
飛びぬけた狩りの腕を持っている。
いずれ、引く手あまたという所だろうか。

「あいつも頑張らないと他の男に……」

そこまで考えて、あぁ、そうだ、と
希は広場を見回す。

「燕(つばめ)」

西一族の中でも目立つ銀髪は
この広場には希と弟しかいないのですぐに見つけることが出来る。

「ん?兄さんどうした?」

だが振り向いた弟の瞳は
相変わらず、黒の色だ。

「あぁ、いや」

「「………」」

呼び止めたものの、なんと切り出そう、と
希は言葉を詰まらせる。

あの話。
山一族の協定の話。
「なんとか断ることは「兄さん、あのさ」」
燕は声をかぶせる様に、遮るように言う。

「今日みたいな狩りはもういいよ」

「……どういう意味だ?」
「だってあれ、俺のためだろ?」
「何言ってるんだ。
 俺はただ、まとめ役として
 結果を出したくて」

「どれだけうちの一族が狩りの成果が全てと言っても
 もう決まったことは変えられない」

「だから、そうじゃなくて」

「無理すんなよ。
 いいんだ俺は納得してる事だから」

「―――燕!!」

希が話を訂正しようとしても
それをすらりとかわして弟の燕は歩いていく。

「さて、俺、規子の手伝いしてくるよ」

協定の話は
希が聞くより早く、燕の耳には入っていたらしい。
当事者になるのだから、まぁ、そうだろう。

すでに本人も納得済みの事だと聞いたその時、

なんだよそれ、と、希は思った。


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