TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「湶と高子」4

2015年01月13日 | T.B.1999年

「あなた、帰るの?」

呼び止められて振り返ると、
彼女が居る。

「あぁ、外で会うなんて珍しいね。
 仕事は休み?」

病院の中でならともかく
日中に村の中で彼女と会うなんて不思議な感じだ
そう、彼は思う。

「いいえ。外回りで。
 ―――ねぇ、帰るの?」

彼は自分の恰好を見る。
大荷物に、付き添いの弟もいくつか荷物を抱えている。
確かにこの格好だとすぐにそれと分かるな、と
彼は苦笑する。

「うん、むこうでの仕事を
 色々と放りだしてきたからな」

彼の祖母が亡くなったのは
つい先日の事。

もともと長くないと言われていた祖母を看取るため
彼は帰ってきていた。
寿命だった。

家族と、医師である彼女に見守られながら
静かに息を引き取った。

元々彼の生活の主体は向こうにある。
だから、葬儀を済ませて、
別れを悲しんだ後、彼が村に残る理由は無い。

2人は少しだけ他愛もない話を続ける。
馬車が出る時間まであと少し。

「身体には気をつけて」

彼女が言い、彼は頷く。
頷きかけて彼は思わず声を上げる。

「あぁ!!」

しまった、と彼がうなる。
「結局、君にお礼をしていなかったな」
「またそれ?
 別に良かったのに」

仕方ないわね、と彼女は笑う。

「―――じゃあ、今度あなたが帰ってきた時に。
 その時はきちんと時間を作るわ」
「そっか、ありがとう」

「まぁ、でも。
 あなたはもう、帰ってこないんじゃない?」

彼女は少し彼をからかいながら言う。
他の村で暮らしているというのは、そういう事だ。

他民族への移住はそんなに簡単な事では無い。
一度移住をしてしまえば、
今回の様によほどのことが無い限りは帰っては来られない。

「うーん」

彼は苦笑いを浮かべる。
彼女には冗談の様に聞こえたのかも知れない。
次の約束も。彼が帰ってくると言うことも。

「―――」

弟が彼を呼ぶ声で二人は振り向く。
少し離れた所にある馬車乗り場から手を振っている。
馬車の時間が近いらしい。

「じゃ」
「さようなら」

そう軽く挨拶を交わすと二人はそれぞれに背を向ける。

「あ、そうだ」

彼は振り返りざまに
ポケットに入っていたものを彼女に投げる。

「それ、預けとくから」

彼女はそれを上手く受け取ると、
掌の物を確認して驚く。

「これ、大事な物なんでしょう?」

彼は手を振る。


「そう、だから
 今度帰って来たときに返してよ」

彼女もまた、手を振り替えしている。
それを見て
彼は馬車乗り場へ向かう。

T.B.2000 西一族の村で