TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「(父親と涼)」4

2015年02月20日 | T.B.2012年

 彼は、隣人の家の近くで、草むらに屈む。

 目をつぶる。
 刀を両手で強く、握りしめる。

 父親に云われたとおり

 やるしかない。

 ――父親は、絶対。

 父親に棄てられたら

 自分は

 生きていけないのだ。

 これぐらい、自分にも出来る。

 父さんに、棄てられたくない。

 ……彼は、待つ。

 あたりは、暗闇だ。
 光はない。

 やがて

 隣人の家の明かりが消える。

 彼は、隣人の家に近付く。

 窓を割る。

 そのまま中に入る。

 暗闇に慣れた目で、隣人をすぐに見つける。
 彼に気付き、声を上げようとした隣人に、迷わず刀を立てる。

「…………っ」

 隣人は、何かを云うが、聞き取れない。

 彼は、隣人の家に火を放つ。
 火は、瞬く間に広がる。

 それに気付いた村人たちが、騒ぎ出す。

 彼は、走る。

「やったか?」

 血だらけで戻ってきた彼を、父親は見る。
 彼は肩で息をし、ただ、頷く。

「やるじゃないか」

 父親が云う。

「その服を脱げ。水なら外にある」

 彼は、自分の姿を見る。
 手を見る。
 目をつぶる。

 そして、再度、外に出ようとする。

 と

 突然、彼は口から、血を吐く。
 何も、見えない。

 そのまま、倒れ込む。

 背中に、痛み。

 何が

 起こったのか

 判らない。

 そのとき
 父親が、彼の背中に刀を差したと判ったのは、

 ……ずいぶんあとになってからだった。



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