その家族は、一族の、村はずれで暮らしている。
父親は、毎日、狩りに出かける。
この一族は、基本、集団で狩りを行うが
父親は、ひとりで狩りへと出る。
たったひとりで、罠を仕掛け、獲物を追い、仕留める。
だから
そう毎日、獲物を仕留めることは出来なかった。
父親は家に戻ってくると、残り少ない油で、明かりを灯す。
「いるのか!」
父親は声を出すが、誰も答えない。
父親は、明かりを手に取り、再度云う。
「おい、どこにいる!」
小さな物音がして、父親が明かりを向ける。
壁際に、息子がひとり、坐り込んでいる。
「そこで、何をしている」
父親の言葉に、息子は顔を上げる。
「まさか、一日、そうしていたわけじゃないだろうな」
息子は答えない。
父親は明かりを置き、家の中を見る。
云う。
「お前、水は汲んできたのか」
父親の問いに、息子は首を振る。
「それぐらい出来るだろう。早く汲んでこい」
父親は、息子の腕を掴み、立ち上がらせる。
息子は、それを振り払おうとする。
が
父親の力は強い。
幼い息子は、振り払うことが出来ない。
「ほら。早くしろ」
父親は息子を押す。
「それから、隣に行って、何かもらってこい」
息子は父親を見る。
「誰のせいで、こんな暮らしをしていると思っている」
父親が云う。
「飢えて、倒れたいのか」
息子は何か云おうか、迷う。
けれども、父親は背を向け、狩りの道具を片付けはじめる。
息子は、ただ、父親の背中を見る。
仕方なく、家の外へと出る。
もう、日は落ちている。
息子は、家の前に立ったまま、あたりを見る。
誰もいない。
家の前に転がっている乾いた桶を持ち、歩き出す。
一番近い水場に向かって。
道をそれ、
草の中を進む。
草で、腕と足が、傷付く。
けれども、構わず、進む。
水場に着くと、息子は、草むらに屈む。
水場を見る。
誰かがいる。
数人。
何かを話している。
狩りの話。
収穫の話。
祭りの話。
どれも、息子が知らないことばかり。
息子は、しばらく待つ。
やがて、村人が立ち去る。
息子は桶を持ち、立ち上がる。
急いで水を汲み、慌てて、元来た道を引き返す。
誰にも見られないように。
気付かれないように。
知られないように。
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