TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と天樹」14

2016年02月26日 | T.B.2016年

 砂嵐が収まる。

 辰樹は、そっと目を開く。
 あたりは暗い。

「東はふたりじゃん」

 砂一族が云う。

「砂もなめられたわー」
「宗主は来てないのか」
「来るわけないだろ!」

 甲高い声で笑いながら、砂は話す。

 辰樹と天樹がふたりだと判って、余裕。

 天樹は辰樹を見る。
 辰樹は頷く。

「おい!」

 辰樹は声を上げる。

「東に毒を使ったな」

「おぉお」
「毒、ね」
「使ったけど」

「お前ら! 笑ってないで、浄化薬を出せ!」

 辰樹の言葉に、おかしそうに砂一族は笑う。

「出せって」
「出すわけないじゃん!」
「おかしいー」

 辰樹は、天樹を見る。

「来年、東の畑はどうなるのかなー」
「実験!」
「実験、実験!」

 砂が動く。

 天樹が叫ぶ。

「地点に気を付けろ!」
「判ってる!」

 辰樹と天樹も動く。

「ひとり目っ!」

 辰樹のすぐ後ろで、声。

 辰樹は武器を握る。

 そのまま、前へ。
 辰樹の横を、矢が抜ける。

「うっ……!?」

 辰樹の後ろの声は、倒れる。
 天樹の矢が、打ち抜いている。

 辰樹は走る。

「おい!」
「紋章術を使わせるな!」
「小さい方だ!」

 砂は一斉に、針を投げる。

 針の先には、砂一族特製の毒。

「お前か!?」

 針を避け、辰樹はひとりの砂に当たる。

「俺かなー」
「浄化薬を持ってるのは」
「誰かなー」

「わっ!」

 砂の針が、辰樹の腕をかすめる。

「危なっ!」

「ちっ」
「避けたか」
「おい、東の動きを止めろ!」

 砂の魔法。

「神経毒だ! 伏せろ!」

 爆発。

 大量の砂が巻き上がる。

「おいおい、俺らも危ないじゃん」
「東は、どこ行った!?」
「探せっ……、て、うっ」

 砂のひとりが倒れる。

 砂埃の中、視界が悪い。

「どうした!」
「何があっ、……ぐっ」
「何だ何だ!?」

 砂埃。

「!!?」

 辰樹は、目をこらす。
 天樹の方を見る。

 天樹は、刀を握りなおす。

「お前ら、早く、浄化薬を出せ」



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「辰樹と天樹」13

2016年02月19日 | T.B.2016年

 冷たい風が吹く。

 辰樹と天樹は、東一族の村からほど近い砂漠へと出る。

「寒っ……」

 辰樹は呟く。

 まだ、日が沈む時間ではない。
 けれども、雲が出ているせいか、あたりは薄暗い。

「辰樹、はぐれるなよ」
「判ってる」

 天樹が指を差す。

「そこに地点だ」
「解除するか?」
「いや」

 天樹は首を振る。

「こちらの居場所がばれる」

 辰樹と天樹は砂漠を進む。

 冷たい風。

 あたりを見る。
 一面の砂。

「天樹、」
「…………」

 辰樹は緊張する。

 何かが近くにいる。

 そんな気がする。

「多いな」

 天樹が呟く。

「多い?」
 辰樹も小さな声で返す。
「多いって、何が?」
「砂の数だよ」
 天樹が云う。
「思っていたより、多い」
「まさか」

 辰樹は、刀を持つ。

「辰樹」

 天樹が云う。

「俺が、非常時の転送術を準備しておくから」

 天樹は持っている弓で、足下の砂をなぞる。
 そこに、法則を持った紋章を描く。

 東一族の紋章術。

「何かあれば、ここに来い」

 天樹が云う。

「東に転送されるようにしておく」

「判った」

「砂をよく見て」

 天樹が云う。

「浄化方法を知っている砂一族を洗え」
「判った」

 …………。

「……??」

 …………。

「でも自身を守るのが、一番だ」
「……おう」

 答えながらも、辰樹はあたりを見る。

 …………。

 何かの

「音が、」
「!!」

 突然の砂嵐。

「辰樹!」

 天樹が叫ぶ。

「砂だ。天樹!!」

 舞い上がった砂に、目がくらむ。

「…………っ!」

「東だ」

 ふたり以外の声。

「やっと来たか」
「遅かったねー」
「待ってたし」



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「辰樹と天樹」12

2016年02月12日 | T.B.2016年

「聞いたか、天樹!」

 辰樹は、天樹の元へとやって来る。

「砂漠寄りの畑に、散布されたって」
「声が大きいよ、辰樹」

 天樹は、弓矢と短刀を持つ。

「まだ、出回ってない話だ」
「……そうなのか。悪い」
「砂一族の毒、と云うだけで、不安が広がるから」

 砂一族は、毒を作ることを得意としている。

 その砂一族に、広い範囲ではないものの、毒を散布された。

 東一族の村の、木々は葉を散らしている。
 田畑の収穫も、今期はすでに終わっている。

 つまり、食糧自体に、毒を散布されたわけではない。

 が

 このままでは、次期に畑を使えない。

 対処が遅ければ遅いほど、毒は広がっていく。

「こちらも、気付くのが遅かったな」
 天樹が云う。
「二晩は経ってるらしい」
「そのときの、務めは誰だったんだろ?」
「誰が、とかはいいだろ、辰樹」

 辰樹が訊く。

「これから、どうするんだ、天樹?」
「その砂一族を探して、浄化方法を聞き出す」
「浄化方法?」
「毒を作ったのなら、浄化薬も作ったはずだ」
「へえ」
 辰樹が云う。
「じゃあ、砂に乗り込むのか?」
「まさか」
 天樹が云う。
「砂はおもしろがって、東の様子を見に来る」
「そこを」
「狙う」

 辰樹は、顔をしかめる。

「上手くいくかな?」
「向こうは、条件として、東の情報を求めるよ」
「情報?」
「主に、重役の情報」
「重役というと、」
「宗主様、大将、占術大師、大医師様、あたりかな」
「それ、教えるの?」
「教えるわけないだろ」
「なら、」
「その砂一族を捕らえるしかない」

「あー……」

 辰樹は手を合わせる。

「砂のあいつが出てきませんように!」
「あいつ?」
「あいつ!」
「……ああ。なるほど」

 天樹にも、思い当たる砂の者。

「ところで、」

 辰樹が云う。
「俺たち、ふたりだけ?」
 天樹が頷く。
「大々的に動けない。だから、俺たちだ」

 天樹は辰樹を見る。

「……辰樹」
「何だ?」

「親には、云って来たか?」
「親に、て。え?」

 辰樹は武器を手に取りながら、首を傾げる。

「何を?」
「これから務めに行く、て」
「あ、それ?」
 辰樹は頷く。
「務めの前は、いつも云ってくるけど」
「そうか」
「何で?」

 天樹は首を振る。

「何でもない」
「何だよー」

 少し考えて、辰樹が云う。

「天樹は、云ってこなかったのか?」

 天樹は答えない。
 辰樹は、はっとする。

「おい! 家の人に、行ってきます、て、云わないのか!」
「辰樹、声でかいから」
「いやいやいや!」

 辰樹は、思わず天樹を掴む。

「お前んち、どうなってるんだよ!」
「どうなってるって」
「だから、一緒に風呂に入りに行こうって!」
「その話は、もういいから!」



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「辰樹と天樹」11

2015年09月25日 | T.B.2016年

「ここ、場所借りてもいい!?」

 辰樹の声に、畑で収穫をしていた東一族が顔を上げる。

「何だ、辰樹。毎年のあれか?」
「そうそう。毎年のあれ」

 辰樹は、道ばたの落ち葉を見る。
 いち早く収穫が終わった畑の隅を借りて、そこに、落ち葉を集める。

 辰樹の家は、
 父親が占術師。
 自身は戦術師。
 そのため、畑を所有していない。

 辰樹は、これでもかと落ち葉を集めると、今度は、別の畑に向かう。

「兄さん、兄さん!」
「何だ、辰樹か」
 その畑で作業している東一族が、手を上げる。
「つまり、毎年のあれ、だな」
「そうそう。毎年のあれ」
「よし、持ってけ!」

 そう云って、取り出したのは

「ありがとう、兄さん!」

 大量の芋。

「焼くぜ!」

 辰樹はひとりで、声を上げる。

「焼くぜ、芋!!」

 辰樹の、毎年の定番。

 落ち葉の中に、芋を入れ、火を付ける。
 火の様子を見ながら、辰樹はさらに落ち葉を集める。

 最初の芋が焼けると、
 辰樹はそれを、畑を借りた人と、芋をくれた人に配る。

 辰樹は、さらに落ち葉を集める。

 次の芋が焼けると、
 辰樹は、自身の家と、従姉の家、叔父の家に持って行く。

 辰樹は、もっともっと、落ち葉を集める。

 芋を焼くのが、楽しくて仕方ない。

「芋ー。おいしい芋ー!」

 辰樹は歌を歌う。

「……辰樹」

「お、天樹じゃん!」
「これは、毎年のあれ、か」
「そうそう。毎年の、」
「ひとり焼き芋大会」

 云われて、辰樹は笑う。

 火を突きながら、歌を歌う。
 焼けた芋を、食べる。

 天樹は、その横に坐る。

「天樹。ほら」

 辰樹は、焼けた芋を差し出す。

「食えよ。こりゃ上手い!」
「俺はいいよ。辰樹が焼いた芋だろ?」
「遠慮するなって」

 天樹は首を振る。

「何だよー。天樹は少食だな」
 辰樹は、やれやれと云う。
「もっと食べないと、大きくなれないぞ!」
「……うーん。そうだね」

 天樹のその様子を見て、辰樹が云う。

「じゃあ、天樹の母ちゃんに持って行ってやれよ」

 辰樹は、再度、焼けた芋を差し出す。
 天樹はそれを見る。

「遠慮するなよー」
 辰樹はいい笑顔を見せる。
「この芋、俺のじゃないけどな!!」

 天樹は、少し考える。

 考えて、云う。

「じゃあ、3つちょうだい」
「3つ?」

 そうか、と、辰樹は頷く。

「天樹の父ちゃんと母ちゃんと、兄弟の分だな」
「そんなもん」
「これを食えば、天樹の父ちゃんと母ちゃんと弟は大きくなるぜー!」
「……何。うちはみんな小柄な設定なの?」
 天樹は焼けた芋を受け取る。
「あと、弟じゃないし」
「お。兄さんがいるのか?」

 うんうん、と、辰樹は頷く。

「そうか。天樹には兄ちゃんがいるのか!」

 天樹は答えない。
 空を見る。

「空が、高い」
「だな!」

 直に、木々は葉を散らし出す。

 ほんの少し、厳しい時期がやって来る。



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「辰樹と天樹」10

2015年09月18日 | T.B.2016年

「おいおいおい、辰樹!」

 陸院は、思わず辰樹を呼び止める。

「お。何だ、陸院」

 ひとり歩いていた辰樹は、振り返る。

 その手には、かご。
 かごには、山ほどの野菜。

 今は、収穫の時期なのだ。

「ずいぶんと、おい、が、多かったな!」

 辰樹は笑う。

「てか、呼び捨てにするなよ!」

 顔を赤くして、陸院は、辰樹が持つものを指差す。
「何だよ、それ」
「あー、これ?」
 辰樹は、野菜を見る。
「未央子に頼まれて」
「未央子に!」

 陸院は声を上げる。

「あの女、最近頻繁に屋敷を出入りするよな!」
「この屋敷に、仕入れしてるからだろ」
「未央子め。会うたび会うたび、いちゃもん付けやがって」
「いちゃもんじゃなくて、自らの行いを振り返れ!」
「で。何で、お前がそれを運んでくるんだよ!」
「頼まれたから」

 辰樹は、面倒を感じて歩き出す。

「いやいやいや!」

 待てよ、と、陸院は辰樹を止める。

「その野菜貸せ!」
「何だ。陸院が運んでくれるのか?」

 陸院は、野菜のかごを奪い取る。

「これ、目の悪い女が洗うんだよ」
「ふーん」
「また、野菜に虫を入れてやろう」
「虫? てか、また?」
「前に試したことがある」
「お前、ばかだろ!」

 辰樹はあきれる。

「そのうち、罰が当たるぞ」
「罰だって?」

 陸院は笑う。

「俺に、罰が当たるかよ」
「それ返せよ。俺が未央子に怒られる」
「持って行ってやるって」
「なら、虫はやめろ!」

 陸院は、再度笑う。
 薄笑い。

「虫に気付いたときの、反応を見たいだろ?」
「……それって」

 辰樹は、気味悪そうに云う。
 でも、声量大きめで。

「お前、その子を好きなのか!」
「辰樹、声がでかい!」

 陸院は、慌てる。

「勘違いするな!」
「ふーん、そうなのか」
「だ、か、ら、そうじゃなくて!」
「ふーん。へぇー」
「俺は、あいつの反応を見たいだけ!」
「あいつ、て? その子の?」
「違う。あいつ、だよ。あー、楽しみだなぁ」

 陸院は、ひとりで云う。

「怒るんだろうなぁ。そしたら、父さんに云い付けてやろうっと」

「……何だ。つまり、その子には男がいるのか」
「ちょっ」
「お前、手を出すのか! すごいな!」
「少しは単語を選べよ、辰樹!」

 辰樹に負けじと、陸院の声もでかい。

「お前、そんなことより、さっさと務めに行けよ!」
「行くって」
「今日、砂漠だろ!」
「わーかってるって!」

 辰樹は仕方なく、反対方向へ歩き出す。
 念押しして。

「お前、虫はやめとけよ!」

 まあ、結局は、その子を好きなんだろう、と。
 辰樹は、今の話を口外しないことにした。

 一応。

 宗主ご子息の想いだと、思って。



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