新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

いちずにフロッシーを想う

2020年04月09日 | 日記

 42年10月、アーサーはふたたび海軍入隊を決意し、家を出る。入隊前にもう一度だけフロッシーに会ってあいさつしたい。「黄色い悪魔(日本兵のこと)」をやっつけるために入隊するのだから、自分は英雄だ。ロマンチストのアーサーは映画の一場面を思い描いた。汽車に乗って海軍へと出発する。汽車の窓から身を乗り出し、恋人フロッシーに別れを告げる。「行かないで、お願い!」といいながらあとを追ってくるフロッシー。映画にするならフロッシー役はジェニファー・ジョーンズがいいな、などと空想するアーサー。
 当時、女子大だったノースカロライナ大学を目指してヒッチハイクを開始する。家には「陸軍に入隊する」と書き置きしてきた。海軍に入隊を希望しているのに陸軍とカムフラージュしたのは、海軍を捜索され、連れ戻されることを恐れたからだ。途中、旅費を稼ぐためにダーハムで肉のパッケージングのアルバイトをする。冷蔵庫内での作業で、体中が凍傷になってくる。1週間しかもたなかった。賄い付きの部屋を借りて住んだが、朝食だけは豪華だった。
 凍傷だらけになった体で、グリーンズボロの学生寮、フロッシーの部屋へたどり着く。その日は金曜日だった。フロッシーは別の男とダンスパーティーに行くことになっていた。相部屋の女の子を紹介され、彼女と一緒に同じダンスパーティーへ行くことになった。タキシードはフロッシーの知り合いが置いていったものを借り、靴はなけなしの金をはたいて古いものを買った。これでYMCAの部屋代だけしか手元に残らない。だぶだぶのタキシードといまにもずり落ちそうなズボンに身を包み、借りもののデート相手を連れてダンスパーティーへ。これもすこしでもフロッシーのそばにいたいがための窮余の一策だった。いっぽうフロッシーは華やかな服装で、彼氏を連れてさっそうと会場入りした。フロッシーの心はすでにアーサーから離れていたことがうかがえる。フロッシーの心が離れる決定的な出来事はそのあとに起こった。(つづく)




青春は1941年12月7日に始まった

2020年04月08日 | 日記

 3月25日に書いたコラムニスト、アート(アーサー)・バックワルドの自伝から。

 1941年12月7日、日本軍の真珠湾攻撃のニュースがアメリカ全土に流れた。現地時間の12月7日であり、日本とは時差がある。アメリカじゅうの若者たちがジャップに報復を、と叫んでいた。血気盛んな16歳のアーサーも同じだった。ここで海軍に入隊することを決意する。年齢を18歳に偽ればなんとかなる。学校や家での生活に飽き飽きし、学校をサボって映画を観にいく毎日だった。家を出るきっかけに、海軍入隊はうってつけの理由だった。ところが同居していた父にも3人の姉にも反対される。父には入隊書類を破り捨てられてしまった。
 1942年夏休み、ニューハンプシャーのマウント・ワシントン・ホテルでベルボーイとしてアルバイトする。男子25人、女子75人が男女別の寮に入って働いていた。ウェイトレスをしていたフロッシーと懇ろになる。フロッシーはノースカロライナ大学の学生で、同じく夏だけのアルバイトに来ていた。母音を長く伸ばす南部訛りがなんともいえない魅力だった。一日の仕事を終え、デートするのは森のなかかゴルフコースぐらいのものだった。ゴルフコース18番ホールのカップ近くで抱擁し合ったのが二人にとっての最高潮だった。そして夏が終わり、別れのときが来る。別れても互いを愛し続けることを約束する。(つづく)