新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

夢のオールスターチーム

2017年08月05日 | 日記


 探し求めていたマイク・ロイコのエッセーを見つけた。1988年2月のジャパン・タイムズ紙に載ったが、ロイコが休暇中のため以前に書いた名エッセーを再録したものだった。初出は1973年5月13日。内容を抜粋してみる。

 試合まえに神にお祈りしてなんの意味がある。何百万ドルが賭けられている試合のまえに、ファンたちまでもがお祈りを強要されるのは滑稽だ。クリスチャン・アスリート協会なるものが勢力を伸ばしている。テレビや新聞に登場し、その敬虔さゆえに自分たちはビッグになったのだと吹聴している。実際、スポーツで活躍している人たちは、すこしも敬虔な宗教家ではない。彼らはどうしようもない大酒飲みで好色漢で、無類のけんか好きばかりだ。その証拠としてメジャーリーグでの夢のオールスターチームを組んでみせよう。

 レフト・・ベーブ・ルース。このホームランキングを除外して夢のオールスターチームを組むことはできない。大食漢の酔っばらい、ほら吹きでけんか好きときている。そのうえ飽くなき好色家でもあった。いちどハリウッド映画に出演したことがあったが、その歳の女優たちのステイタスシンボルはベーブと寝たことだったという。ベーブは彼女たちみんなにステイタスを与えようとした。21年間プレーしてホームラン714本、打率.342、投手として93勝した。
 センター・・タイ・コッブ。23年間で打率.367。性格は卑劣で敵意むきだし、球場外でも変わらなかった。ナイフを手にけんかし、深手を負った翌日も試合には出場した。
 ライト・・ポール・ウェイナー。19年で.333。ベンチでよくコークビンをすすっていた。あるときバットボーイがこっそり一口含んで眠ってしまい、目ざめたときは悪酔いしていたという。
 ファースト・・ハック・ウィルソン。外野手であることは知っているが、守備につくときわざわざ外野まで千鳥足で歩く必要がないようにしてやろう。あるとき試合まえにロッカールームで、氷を入れたバスタブにウィルソンが浸かっていた。酔いをさまそうとしていた。ひどい体調だったけど、その日の試合では3本のホームランを打った。またある試合ではスタンドへ駆けこみ、ヤジを飛ばす客に殴りかかった。客にそれほど腹だったわけではなく、警察に逮捕されて酔いをさましたかっただけだった。1シーズン56本のホームラン、打点196はいまだにナショナル・リーグの記録だし、ビールジョッキの大きさの記録も保持していた。行きつけのバーはウィルソン用の超特大ジョッキを用意していた。
 セカンド・・ロジャーズ・ホーンズビ。生涯打率.358。酒は飲まないしたばこも吸わない。けんかもめったにしない。道楽は馬と女だった。
 ショート・・ラビット・マランヴィル。チームが宿泊しているホテルを抜け出し、タクシー運転手にけんかを仕掛けて負ける。2人目、3人目にも負け、計5人に負けた。「何をしているんだ」と尋ねると「勝てる相手を探しているんだ」とのことだった。
 サード・・ジミー・フォックス。ホームラン534本、打率.325。ベースに滑り込んだり、倒れ込んだりすることがあるのだろうか。自らのレストランを開店したとき、開店日に4日遅れて現れた。
 キャッチャー・・午前3時、リーグ役員ヴィーク家の電話が鳴った。クイーンズ区の警察がロリー・ヘムズリの身柄を確保していた。酔ってけんかしたという。ヴィークがホテルへ連れ帰った。午前8時、こんどはブルックリンの警察に保護された。ヴィークがヘムズリを球場へ送り届けることで、1日にニューヨークのすべての警察署に逮捕されるという不名誉な記録を打ち立てることだけは避けた。
 ピッチャー・・ヤンキーズ相手のワールドシリーズで、グローバー・クリーヴランド・アレクサンダーほどリラックスして投げたピッチャーはいなかった。しらふで投げていたのではなかった。投手本人は気づいていたかどうか、バッターを三振に討ちとった。ルーブ・ワッデルも投手としては上等だった。釣りと酒にふけり、最後は3匹のますと一緒にジンの風呂に浸かって死んでいた。
 監督・・これら自由人選手をとりまとめられる監督はレオ・ドゥローチャーをおいてあるまい。彼はあまりに模範的な行動ばかりで一時は野球界を追放されたことがある。いま彼に必要なものは栓抜きだけだ。