新・日曜炭焼き人の日記

炭遊舎のホームページで書いていた「日曜炭焼き人の日記」を引きついで書いていきます。

安保狂騒のあとで

2015年10月11日 | 日記

 安全保障関連法案が強行採決されてから3週間あまりがすぎた。どこか60年安保を思い出させる狂騒だったが、加藤周一「続羊の歌――わが回想――」(岩波新書)でそれが確認できた。
 加藤はみずからの半生をふりかえり、さながらジャン・ジャック・ルソーの「告白」のような調子で、この回想録を書いている。その最後の部分で、1960年の日米新条約批准を保守党が単独強行したこととその直後の状況に言及している。
 まず新条約批准についての激しかった反対運動について、丸山真男のことばを借りて総括する。「毎日グラフ」で加藤が丸山真男と対談したさい、丸山がこの反対運動を3点に要約した。第1に、反対運動は労働組合や社会運動の幹部が主導したというよりは学生や労働者、大衆が自主的に始めた傾向が強く、それに組織の幹部がのっかっていった。第2に、反対運動が「反米」とか「反安保」とかいうよりも、どちらかといえば「強行採決」にたいする反対だった。第3に、この運動は戦後に始まった民主主義が根づいてきたことを証明するものだった。
 これら3点は、今夏の安保狂騒とそっくりだ。1点目の大衆主導の反対闘争だったという点は国会まえのデモから全国に広がったデモをみてもよく分かる。2点目についても、野党のなかに自民党案に賛成する党がでたこと、民主党内に自民党寄りの人がいて必ずしも法案反対一本でまとまらなかったことから、「審議を尽くせ、」「強行採決するな」のほうへ民意が傾いていたことから分かる。3点目は、デモ自体が比較的整然としたものであったことから民主主義の成熟度がさらに進んだことがうかがえよう。
 1960年秋には総選挙がおこなわれ、ふたたび保守党が安定多数を獲得した。岸内閣にかわった池田内閣が「所得倍増論」をうちあげる。いっぽう安倍内閣は「所得倍増論」を意識したのか「GDP600兆円」達成を華々しくうちだした。GDPがあがっても国民の一人ひとりにその恩恵が行きわるとはかぎらない。そこで「1億総活躍」ということばをつくり出した。安全保障問題から国内経済に国民の目を移して、政権の人気を回復しようとする作戦も60年の岸、池田内閣を彷彿させる。
 加藤周一はこうも書いている。「その後の経過をみれば、60年初夏の経験から多くを学んだのは、権力側であって、反対党や大衆組織の側ではなかった。」今回の狂騒でもおなじ流れにならないことを願いたい。