図書館から借りていた 平岩弓枝著 「御宿かわせみシリーズ」第24弾目の作品「春の高瀬舟」(文春文庫)を読み終えた。「御宿かわせみシリーズ」は 全34巻に及ぶ 超長編時代小説であるが 各巻は ほぼ一話完結の連作短編構成になっているため、記憶力減退爺さんでも 意外と読み進めやすい気がしている。ただ 読むそばから忘れてしまう爺さん、読んだことの有る本をうっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも 備忘録としてブログに書き留めおくことにしている。
平岩弓枝著 御宿かわせみ(二十四) 「春の高瀬舟」
本書には 表題作「春の高瀬舟」の他、「花の雨」、「日暮里の殺人」、「伝通院の僧」、「二軒茶屋の女」、「名月や」、「紅葉散る」、「金波楼の姉妹」の 連作短編8篇が収録されている。
「花の雨」
斎藤弥九郎から神道無念流の免許皆伝を受けている神林東吾は、八丁堀組屋敷内に有る剣道場でも師範をつとめている。道場帰りに幼馴染みである定廻り同心畝源三郎と会うが 立春の日に生まれた娘千春の話題から始まるところ等、物語全体のトーンが変わってきている。源三郎は、同役定廻り同心最古参の吉井伝兵衛から、岡場所に入り浸っている息子喜一郎のことを相談されており、長助が探索、東吾も、吟味方与力の兄神林通之進からサポートするよう指示され首を突っ込んでいく。麻布界隈に夜盗続出、真相解明、謎解き開始。浮舟(本名おてい)?、およね?、大捕物の末盗賊は一網打尽となり・・・。喜一郎は?
「春の高瀬舟」(表題作)
古河米を江戸で売る米問屋古河屋の主人市太郎が 買い付けと娘伊乃と養子輝之助の縁組の相談で古河に出掛け、高瀬舟で江戸に帰る途中で行方不明になり、死体で発見され、源三郎、長助が 探索、麻生宗太郎にも促され、東吾も首を突っ込んでいく。源三郎「東吾さんは どう思いますか」、「俺にも さっぱりだが・・」、長助が調べ上げた情報から 東吾、長助、源三郎、男同士がヒソヒソ相談。話に加われないお吉、るいがむくれる。関宿の木村清兵衛?、市太郎の女房おくめ?、手代の清四郎?、謎解き、真相解明、事件解決、意気揚々と説明する東吾に るい、お吉が無視。
こいつはまずいと思いながら(東吾は)とりあえず手酌で飲んだ。
「日暮里の殺人」
「かわせみ」の泊まり客森川徳兵衛が日暮里の月見寺と呼ばれる本行寺境内で撲殺された。徳兵衛が二人の幼児のために甥の吉三郎夫婦を元の鞘におさめようとした世話焼きが講じて起こった事件、音松と駆け落ちしたおいとは?
「寝たのか。ちび姫さんは・・」・・・るいはしっと指一本を口にあてた。
「伝通院の僧」
時折「かわせみ」にやってくる麻生宗太郎に 「東吾さんも すっかりいい親父さんになりましたね」等と言われ 東吾も「源さんも、俺も、宗太郎も、みんな親父になってしまったんだな」、青春の日は確実に遠くなったという感慨が湧いてきて 庭の青葉に目を細めた。「この分だと 三人共 あっという間に爺いになるぞ」
柳橋の蕎麦屋信濃屋によく現れる僧は 家康の生母於大の菩提寺でもある名刹小石川の伝通院の僧だいう。
東吾は 信濃屋を探すつもりで柳橋へ向かった際、番屋で源三郎に会い、芸者きく江が火傷した事件で妹分のお染、役者の中村市三郎と出会う。麻生宗太郎に誘われ出掛けた柳橋の武蔵屋、5人の芸者の中にお染がいたが・・・、そのお染が水死、玄信と名乗る僧(出家する前は仙太郎)との関わりは?
「二軒茶屋の女」
深川富岡八幡宮の境内のはずれにはかって「松本」「伊勢屋」の二軒の料理屋が有ったが、伊勢屋が廃業、松本だけが営業しているが 二軒長屋という名が残っている。「松本」で開催した仙鶴堂喜兵衛の書画骨董展示会で 売上金300両紛失事件が発生。同日 兄神林通之進と共に出掛けた向島の武蔵屋の庭で見掛けた女おようとは?、「松本」の女中は4人、船頭新三が殺された。源三郎、長助、東吾が謎解き、真相解明、、、
「名月や」は
「かわせみ」の女中頭お吉が贔屓している青物棒手振り弥七には 女房おやすとその連れ子2人がいる。おやすが箱根に湯治に出掛けてしまい商売が出来なくなり、夫婦別れしそうな状況に。一方で 岡っ引き長助が 訳ありの団子売り庄吉を連れてきて、「かわせみ」で団子の味比べが・・、女中頭のお吉にまくしたてられて、東吾は慌てた。「これを みんな食ってみろということか」。弥七の子供2人が水死。弥七はおやすに三下り半を。弥七と庄吉は?
その夜、夕化粧もひときわあでやかなるいと並んで「かわせみ」の縁側から大川の上の満月を眺めて、東吾は人はそれぞれだと改めて思った。
「紅葉散る」
晩秋、品川御殿山の旗本滝川大蔵の隠居所で催された古希の祝いに 東吾は、兄神林通之進の代理として、兄嫁香苗と麻生宗太郎と共に出掛けたが 宴の終わる頃、屋敷の表で斬り合いが起こる。東吾が暴漢3人を倒したが その近くで瀕死の重症を負っていた女性があった。麻生七恵の友人で 柳川藩大村家に後添えになり 後に未亡人となっている琴江(清水琴江)だった。「あの子を・・・助けて・・」「あの子を先に・・、追手が・・、追手が」、一人息子麻太郎のことを東吾に頼み、息を引き取ってしまう。そこからの結末までは 本篇のクライマックスではないかと思う。
仁村大助とは?、源三郎、仙五郎にも応援を頼み、無駄とは知りながら暗い町辻に目を凝らし走り続ける東吾。
源三郎が駆け付けてきた。東吾と源三郎は 馬で八丁堀に戻る。神林家の前には、麻生宗太郎が立っており、麻太郎は 兄嫁香苗の乗る駕籠の中に居て、香苗が「お助けします。私を信じて、申し上げる通りにしなさい」と言い、無事保護していたことを知る。「麻太郎が こう言いましたよ、母上の声のように思えたと・・・」
神林通之進は 居間の廊下で「待ちかねたぞ」、麻太郎は まっしぐらに東吾の腕の中に飛び込んできた。・・・、「よいか、早とちりをするでないぞ。わしは麻太郎を、あくまでも大村麻太郎として養子に迎える。・・、彼が 香苗の駕籠へ救いを求めたのも神仏のお導きと思う・・」、東吾「なにも申し上げることはございません。ただ、兄上の御配慮、義姉上のお情、ありがたく・・・」、傍から、宗太郎がとぼけた声で言った。「・・・。東吾さんは 麻太郎の叔父上になるわけですから・・・・親父顔をしてはいけません」、通之進がさわやかな笑い声をたてた。
全てを分かって居て、好きなことを言い合えて、出過ぎず、困っていればさりげなく助ける友人達に恵まれている東吾、とりわけ、兄の吟味方与力神林通之進と兄嫁香苗の、人間の大きさ、懐の深さ、情の厚さ、存在感が大きい。
いずれ 最愛の妻るいにも真実が打ち明けられる日が来るはずで その時のるいがどんな心境になるのか、どんな態度になるのかが 気になるところだ。
「金波楼の姉妹」
「かわせみ」の女主人るいの幼友達五井和世は、出家し和光尼となり、日暮里の普門寺にある西行庵で近所の娘達に琴の稽古等して暮らしているが 久し振りに「かわせみ」にやってきて まだ乳離していない千春を気遣いながらも、今戸の金波楼で琴の会をするので 観に来てほしいと遠慮勝ちにるいを誘った。るいは、畝源三郎の妻お千絵と岡っ引きの長助、三人で出掛けたが その翌日 和光尼五井戸和世が「かわせみ」にやってきて 隠居している金波楼の主人庄右衛門が、後妻のおせんに店を乗っ取られると言っていることを聞いて 東吾に相談をする。おせんの連れ子のおしな、先妻との子おさちの関係は?、畝源三郎に相談し長助が探索開始、それから3日目、庄右衛門とおさちが毒を盛られそこなったとの一報が入り、東吾も真相究明に首を突っ込む。医者である親友麻生宗太郎にも相談、応援してもらうが。宗太郎は 片目をつぶって「賭けませんか」、「おせんは金波楼を出て行く」、「そして 金波楼は潰れます」、「おぬし、商売の診立てまでするのか」、「当たったら 宮川の鰻を麻生家のみんなの分だけ届けること・・・」、「かわせみ」に報告にきた長助はしきりに ぼんのくぼに手をやった。東吾は紙入れの中の金を数えた。
(つづく)