ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

偉大なる男の名は

2004年02月29日 | その他
名古屋の中京テレビで、戸高秀樹とレオ・ガメスのWBA世界バンタム級
暫定王座決定戦が放送された。この試合が行われたのは昨年10月だが、
当日の地上波では短いダイジェストしか放送されなかったものだ。
戸高は来週に初防衛戦を控えているので、その前景気を煽るためだろうが、
こういうタイミングで世界戦が放送されるというのも珍しい。

そのガメス戦だが、両選手の動きが非常にいいので驚いた。ボクシング
関係のサイトなどではあまり試合内容に対する好評価はされていなかったが、
どうしてどうして、戸高はスーパー・フライ級の王座を獲ったロハス戦を
思わせる最高レベルの出来だし、ガメスの方も腹のたぷついた40歳とは
思えないくらいパンチにスピードやキレがあった。40歳でこの動きが
出来るガメスはもちろん驚異なのだが、戸高だって30歳だ。ボクサーとして、
一般的には衰えていても仕方のない年齢なのだ。

放送ではいくつかのラウンドがカットされていたため、正確な評価は
出来ないが、前半の手数で戸高、後半の圧力でガメスがやや優位だった
だろうか。2対1の判定もうなずける接戦だったのかな、という気がした。
世間の評価はどうあれ、スピードや技術、距離の取り合いやフェイントでの
やり取りも含め、とても緊迫感のある好試合だったというのが個人的な感想だ。

以前はがむしゃらに前に出るだけのケンカじみたファイトを繰り広げた
こともある戸高だったが、多彩なパンチを自在に繰り出すガメスに対し、実に
冷静に戦っていた。離れたかと思えば、いきなり鋭く距離を詰めて連打を
繰り出す。ヨックタイ戦やガメスとの初戦では愚直に攻め続ける「熱さ」
ばかりが強調されたが、変幻自在の動き、実はこれこそが戸高本来の持ち味
ではなかっただろうか。

またガメスに比べればやや劣るものの、パンチの正確性も以前より増していた
ように思えた。以前は連打と言うよりも、「乱打」に近い攻撃だったように思う。
また、パンチを受けても熱くならず、それでいて必ず相手に手を返していたのも
良かった。この時のガメスの出来の良さを考えれば、並の選手なら打たれっぱなし
になってもおかしくない。戦略面での冷静さと、精神的な図太さがいい具合で
ミックスされていた。

さすがに終盤は両者とも動きが鈍ったが、バテバテの泥試合と言うほどでは
なかった。ガメスは疲れ、戸高は主にダメージによって、二人とも無闇に
攻め込む危険を冒すことが出来なかったのだろう。この辺りの駆け引きも
見ていて面白かった。

こうして僅差の判定で、暫定ながら2階級制覇を果たした戸高。ガメスに痛烈な
KO負けを喫し、顎の骨折や目の負傷を乗り越えての再起。以前から彼は「雑草」
と呼ばれていたが、その逞しさに更に磨きがかかった感じだ。冷静さと熱さが
同居した戸高秀樹は、ボクサーとしてまさに今が全盛期なのでは、とすら思わせる
試合ぶりだった。

当初は正規の王者であるジョニー・ブレダルとの統一戦が次の試合として
予定されていたが、交渉が難航し、代わって暫定王座の防衛戦をすることに
なった。その初防衛戦の相手は、メキシコのフリオ・サラテ。この選手の
情報はあまり入っていないので勝敗や展開は予想しづらいが、「王座返り咲き
よりガメスへのリベンジ」を最大の目標に掲げていたことや、「次はビッグな
試合をやりたい」として統一戦や辰吉丈一郎との対戦を熱望していたことを
考えれば、モチベーションの低下は懸念されるところだ。

ただ一ファンとしては、無名の相手にズルズルとポイントを奪われて判定負け
などという、覇気のない戸高秀樹は見たくない。勝つにせよ負けるにせよ、
見る者を熱くさせるファイトを期待したい。とは言え、仮にどんな負け方を
しても、あるいはこの先チャンピオンとして世間にあまり名を知られることが
なくても、自分の記憶の中には、戸高秀樹というチャンピオンの名は永遠に
残り続けることだろう。このガメスとの再戦を見てそれを確信した。

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