ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

日本S・ライト級TM 木村登勇vs小暮飛鴻

2006年08月05日 | 国内試合(日本・東洋タイトル)
もはや何も言うことはない。5年7ヶ月ぶり、2度目のタイトル挑戦に
燃える小暮の闘志を空転させ続け、一方的に殴りまくり7ラウンド終了
間際の連打でTKO。全く危なげなく7度目の防衛に成功した。

独特の野性的なキャラクターの小暮は、お揃いのTシャツを着た
たくさんの応援団からの声援を浴びて入場。組織だった応援のない
木村に対し、人気の面では上回っていたが、力の差は段違いだった。

木村は4試合連続のKO防衛。もう国内に敵はおらず、次のステップに
進むべきだろう。本人はあまり欲を見せず、日本タイトルの10度防衛を
目指すと語っていたが、強豪ひしめくスーパー・ライト級では世界挑戦が
非常に難しいことを知っての発言なのだろう。であるならば、まずは
東洋太平洋のベルトを狙って欲しい。

確かに完勝ではあったが、この日の木村の戦いぶりは、上を目指す人間
としての強烈なアピールに欠けていた。楽に戦い、楽に勝ってしまった
という印象なのだ。これだけの素質を持ちながら、もったいない話だ。


ランダエタvs亀田 その後

2006年08月05日 | 国内試合(世界タイトル)
先日の試合を見返し、採点を付けてみた。詳しくはこちらを見て
いただきたいが、僕の採点は115-112で一応ランダエタの勝ち。
(もちろん、これはあくまで素人の採点であり、参考程度にしか
 ならないということはあらかじめ断っておきたい。)

なぜ「一応」かというと、どちらにも付けがたい微妙なラウンドが
非常に多かったからだ。公式の採点でも、3人のジャッジの見方が
一致したのは12ラウンド中わずか4ラウンド。

僕の印象でも、2、3、5、6、8、9ラウンドなどは本当に
振り分けにくかった。ちなみにその微妙なラウンドのうち、僕は
2、3、6、8ラウンドを亀田に付けたが、もし残りの5、9
ラウンドも亀田優勢とすれば、合計では114-113で、
亀田の勝ちということになるのだ。

もう一つ気になったのは、第7ラウンドだ。この回の中盤、亀田が
ランダエタをロープに詰めて連打し、大歓声が湧き上がったが、
その後ランダエタはすぐ反撃し、全体としてはランダエタ優勢と僕は
見たのだが、3人のジャッジのうち2人は亀田のラウンドとしている。

ジャッジとはいえ人間だから、無意識のうちに会場の声援に影響される
ことがあってもおかしくないし、失礼な言い方だが、3分間完全に集中
しきって全てのパンチを見ているとは限らないだろう。もちろん座っている
場所によっては、見えにくかったパンチもあるはずだ。

つまり、非常に微妙な内容の試合であったことは間違いなく、そこに
「地の利」そして「ラウンドマストシステム(後述)」という要素が加われば、
今回のような判定も充分に起こり得るというわけだ。

そういった意味では、やはり「地元判定」という印象は免れないものの、決して
一部の新聞等が「史上まれに見る」と騒ぎ立てるほどの不当性は(現行の
システム上では)感じられない。言い方は悪いが、この程度の判定は過去にも
いくつかあったはずだし、地方の試合などでは、もっとひどい、あからさまな
地元判定だってあった。


しかし、やはり亀田の負けだったという印象を持つ人が多いのも無理はない。
ランダエタが明らかな劣勢に立った場面は皆無であるのに対し、亀田は
1ラウンドにダウンを奪われ、11ラウンドにもダウン寸前に追い込まれている。
序盤と終盤の印象が悪すぎるのである。

僕は以前から、拮抗したラウンドでも出来るだけ「10-9」を付けるという
現行の「ラウンドマストシステム」に不満を持っていた。ほぼ互角であるなら、
10-10でいいはずだ。無理に優劣を付けようとするのはおかしい。
ランダエタが11ラウンドに取った「10-9」も、亀田が5ラウンドに取った
「10-9」も重みは同じ、というのが今のシステムなのだ。

内容では亀田の完敗。しかし採点上は微妙。問題は、そういった採点の
システムをよく知らされないまま、あまりにも多くの人がこの試合を見たと
いうことである。また、普段から亀田が視聴者の神経を逆撫でするような
言動を繰り返していたことから来る反感がそこにプラスされ、今回のような
騒動が巻き起こったというわけだ。メディアは無責任に、あるいは感情的に
煽るだけではなく、その辺りのこともしっかりと伝えるべきだ。

いずれにせよ、あれだけ大口を叩いて来た以上、このような拙戦を見せて
しまった亀田が「それ見たことか」とばかりに非難されるのは仕方ない。
メディアを利用してのし上がってきた亀田だが、その「副作用」はあまりにも
大きかった。


さて、何とか名誉挽回を図りたい亀田の今後についてだが、試合前は「大晦日の
防衛戦、あるいは統一戦」が既定事項のように報道されていたが、父親で
トレーナーの史郎氏が反対しているという話もあり、まだ流動的だ。
今回の内容から判断すれば、WBC王者との統一戦は時期尚早に過ぎ、
少なくとも次戦での実現の可能性はほぼ消えたと言っていいだろう。

また、いつものパワーが感じられなかったところを見ると、ライト・フライ級での
減量は相当きついに違いない。防衛戦を行わず返上し、本来のフライ級に戻る
という話も出てきた。出来れば次は「安全パイ」と思われる選手と戦って調子を
取り戻した方がいいと個人的には思うが、それでは納得しない人も多いだろう。
全ては自分で蒔いてきた種なのだが、亀田は早くも非常に厳しい立場に
立たされている。


ただ、この一連の「亀田騒動」には、一つだけいい面がある。それは、亀田の
試合やマッチメークを通して、ボクシング界の悪い部分が衆目に晒されると
いうことだ。明らかに弱い、あるいは勝つ気のない相手ばかりを倒して
戦績を上げたり、地元選手に有利な判定で勝ちを拾ったり。こういったことは、
以前から各地で行われてきた。亀田陣営は、それをやや露骨な形で行ってきたに
過ぎないのだ。

最近はそういったケースは減る傾向にあり、見応えのある試合を組むジムが
増えている。この騒ぎをきっかけにファンの監視がより厳しくなり、
ボクシング界の体質改善が促進されることを願う。個人的には、これを機に
ラウンドマストシステムなど廃止になってくれたら嬉しいのだが。


何だかとりとめもない文章になってしまったが、出来るだけ選手を
「一ボクサー」として見ていきたい僕としては、今回の試合について
書くのはこれで最後にしたい。