ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBA世界Lフライ級王座決定戦 ファン・ランダエタvs亀田興毅

2006年08月02日 | 国内試合(世界タイトル)
亀田興毅、2-1、僅差の判定で初の世界王座獲得。
まさか正夢になるとは思わなかった。あくまで
偶然なのだが、ちょっとびっくりした。

そして意外だった。恐らくKOで勝つと思っていたし、
そもそも亀田陣営は、なるべく楽にタイトルを獲るために、
これ以上ない相手を見つけてきたという印象があったからだ。


非常に微妙な内容だった。技術では完全に負けていた。
というより、亀田はまるで下手くそなボクサーに見えた。
体の振りが全くなく、じっと止まって真正面に立つ。
1ラウンドに喫したダウンのおかげで萎縮したのか、
いつもの大胆さに欠け、怖がっているようにさえ思えた。
これまで散々言われてきた、ピンチを経験していないという点。
劣勢に陥った際の策のなさが際立ってしまった。

それでも、とんでもなく大きなプレッシャーを背負った
19歳は、ひたすら前に出続けた。これまで多くの相手を
倒してきたパンチには信じられないほど力が感じられず、
ランダエタが倒れる気配は全くなかったが、それでも
手を出し続ける。

ダウンの失点は、前半の攻勢で帳消しになったと見えた。
ランダエタは後半に失速するという話もあったが、それは
あくまでミニマム級でのこと。階級を上げ、減量が楽になった
ランダエタのスタミナは、結局最後まで切れなかった。

後半は総じてランダエタのペース。11ラウンドには、再び
ダウン寸前まで追い込まれる。そこで亀田はクリンチ。
絡みつく腕に、必死さが現れている。ここを凌いだのは、
どうしても負けられないという気持ちの強さがあったから
だろう。それはもう、強迫観念とさえ言えるものだった。


結局、この試合では亀田の経験の少なさが浮き彫りになって
しまった。体格差のある相手には余裕を持って対処してきた
亀田だったが、下の階級から上がってきた選手であるにも
かかわらず、ランダエタの体格は決して劣っておらず、むしろ
いつも以上の減量を強いられた亀田の方が小さく見えたほどだ。

この日の亀田には、終始余裕がなかった。ほとんど精神力だけで
持ちこたえたようなものだ。その気持ちの強さは称えられてもいいと
思うが、とても万人を納得させられるような内容ではなかった。


亀田は今後、どのような路線を歩むのだろうか。数多くの未熟な
点をさらしてしまった。何より経験値が足りない。今回の体つきを
見る限り、ライト・フライ級では力が出ないだろう。かといって
タイトルを獲ってしまった以上、簡単には階級を上げることも
出来ない。フライ級に戻ったところで、自分よりパワーのある相手には
なす術がなくなってしまうかもしれない。難しいところだ。

ただ、亀田はまだ19歳。今日の試合を見る限り、初防衛戦で負ける
ことさえあるかもしれないが、それはそれでいいと思う。まだまだ
学ぶべきことは多いのだ。たくさんのキャリアを積んで欲しい。
キャリアを積んだからといって劇的に強くなるとは思えないが、
亀田に関しては、もともと「才能は並」と言われていたものだ。
こういう泥臭いボクシングが、実は本来の姿なのかもしれない。

だとすれば、亀田に必要なのはやはり「本物のキャリア」だ。
楽な相手ばかり選んで勝つようなマッチメークは、才能に溢れた
エリートのための路線であり、亀田は強敵との苦闘を泥臭く勝ち
上がってこそ、筋金が入るタイプなのではないだろうか。

勝利が告げられた時、リング上で人目もはばからず号泣した亀田。
現在の実力やそういったパーソナリティも含め、ある意味で
初めて等身大の亀田興毅が公になった試合でもあった。


ところで、ネットを見て驚いたのは、この判定結果について
早くもたくさんの元世界王者たちに感想を聞いていることだ。
これまでにも数多くの不可解な判定があったはずだが、元王者たちが
ここまではっきりと非難した例はあまり見た記憶がない。

確かに僕自身(きちんと採点していたわけではないが)、亀田の
勝ちが告げられた時には「えっ?」と思ったが、こんな場合でも
業界の人間は沈黙を貫くか、健闘を称えるに留めるのが普通だ。
つまりそれだけ、業界内にも潜在的に「アンチ亀田」が多かった
のだろう。その意味でも、亀田の前途は多難だと言える。