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自己と他者 

自己理解、そして他者理解のために
哲学・ビジネス・雑記・洒落物など等

サン・テグジュペリ『夜間飛行』 & お祝い飲み会

2007-07-21 12:09:20 | 小説

昨日、会社の同期の女性の誕生日お祝いを品川の飲み屋で行ったのですが、久々に楽しめた。私と同部署の上司とその上司の上司も参加しておりみんな楽しんでいて雰囲気がよかった。しかも先輩のバースデイも今日だったことが分かり、

さらに雰囲気は良くなりました。

何より、バースデイを迎えたお二人が楽しんでいたみたいでそれが一番でした。

・・・・自分の名前で予約したんだけど、予約の「高野様」という看板から目線を少し上にずらしたら「水戸藩」!!!とあった。地元であたっているんだけど、どうして分かったんだろう。というか偶然か。

・・・・もう一つ。今日の21:00~アニメ『時をかける少女』がやるようですね。オススメです。

不覚にも観ている最中に涙が落ちてしまいした。映画の『バタフライ・エフェクト』ってこれをパクッタんじゃないかな。

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さて今日紹介するのはこちらの本。

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サン・テグジュペリ『夜間飛行』(新潮文庫)

訳者は堀口大學氏

カバー装画は宮崎駿監督の手によるもの。

『星の王子様』という作品で有名に。

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著者のプロフィール

名門貴族の子弟としてフランス・リヨンに生まれる。海軍兵学校の受験に失敗後、兵役で航空隊に入る。除隊後、航空会社の路線パイロットとなり、多くの冒険を経験。その後、さまざまな形で飛びながら、1928年に処女作『南方郵便機』、『人間の土地』『戦う操縦士』『星の王子様』などを発表。第二次大戦時、偵察機の搭乗員として困難な出撃を重ね、44年コルシカ島の基地を発進したまま帰還せず。

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「僕の一生も、どうやらこれで仕上がった」とリヴィエールは思った。

 疲労に原因する自分の寂しさを、全部押し片付けて、彼は格納庫の方へと歩き出した、リリーがうなりを立てて近づいてきたので。

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今夜と同じように、そのときも彼は自分を孤独に感じたが、すぐにまた、このような孤独が持つ美しさに思いを知った。あの音楽の伝言は、凡人たちの間にあって、秘密のような美しさを持って、彼に、彼にだけ理解されたものだ。あの星の信号もまさにそれだ。それは、美しさを持って、彼に、彼にだけ理解されたものだ。あの星の信号もまさにそれだ。それは、多くの肩を乗越えて、彼にだけわかる言葉でものを言っていた。

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僕は自分がしていることが良いことかどうか知らない。僕は、人生に正確にどれほどの価値があるものかも、正義にどれだけの価値があるものかも、苦悩にどれだけの価値のあるものかも知らない。僕は、一人の男の喜びに正確にどれだけの価値のあるものかも知らない。わななく手の価値も、哀憐の心の価値も、優しさの価値も知らない・・・・。

「人生というやつには矛盾が多いので、やれるようにしていくよりしようのないものだ。ただ、永久に生き、創造し自分の滅びやすい肉体を・・・」

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・・・・・注意しろよ、夜だぜ」

同僚の忠告も耳には入らなかった。両手をすっぽりポケットに入れ、頭を後へそらせ、顔は、雲に、山々に、河川に、海に向けたまま、彼は今無言のまま微笑しだした。それは、かすかな微笑ではあったが、木をゆすって通る微風のように、彼の全体をわななかせる微笑だった。それは弱い微笑だったが、しかも、あの雲よりも、山よりも、川よりも、海よりも力強い微笑だった。


サン=テグジュペリ『人間の土地』

2007-07-18 22:41:36 | 小説

(新潮文庫より)

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名言

「 努めなければならないのは、自分を完成することだ。試みなければならないのは、山野のあいだに、ぽつりぽつりと光っているあのともしびたちと、心を通じ合うことだ。」

「ぼくが、自分の思い出の中に、長い嬉しい後味を残していった人々を探すとき、生きがいを感じた時間の目録を作るとき、見いだすものはどれもみな千万金でも絶対に購いえなかったものばかりだ。何人も購うことはできない、一人のメルモスのような男の友情も、相携えて艱難を凌ぐことによって永久に結ばれたある僚友の友情も。

 あの飛行の夜とその千万の星々、あの清潔な気持、あのしばし絶対力は、いずれも金では購いえない。

 難航のあとの、世界のあの新しい姿、木々も、花々も、微笑も、すべて夜明け方ようやく僕らが取り戻した生命にみずみずしく色づいているではないか。この些細なものの合奏が僕らの労苦に報いてくれるのだが、しかもそれは黄金のよく購うところではない。

 そしてまた、いま思い出にのぼってくる、不帰順族の領域内で過ごした、あの一夜にしても」(p42)

「僕らの邂逅は全かったのだ。長い年月、人は肩を並べて同じ道を行くけれど、てんでに持ち前の沈黙の中に閉じこもったり、よしまた話はあっても、それがなんの感激もない言葉だったりする。ところが、いったん危険に直面する、するとたちまち、人はお互いにしっかりと肩を組み合う。人は発見する。お互いに発見する。おたがいにある一つの協同体の一員だと。他人の心を発見することによって、人は自らを豊富にする。人はなごやかに笑いながら、お互いに顔をみあう。そのとき、人は似ている、海の広大なのに驚く開放された囚人に。」(p44)


伊坂幸太郎『グラスホッパー』

2007-07-12 22:43:49 | 小説

(角川文庫)より

「今まで世界中で起きた戦争の大半は、みんなが高をくくっているうちに起きたんだと思うよ」~

「世の中の不幸の大半は、誰かが高をくくっていたことが原因なんだってば」。

確かに。

「俺はよ」「自殺するヤツが大嫌いなんだ。人間だけだぜ、逃げるように死ぬのは。えらそうじゃねえか。どんなに酷い環境におかれたって、動物は自分から死のうとはしねえよ。自分たちが生き残るために他の動物がどれだけ犠牲になったかしっているからだ」

確かに。

「世の中に酷くないことなんてないでしょ?生まれたときから、死ぬのが決まっているというのがすでに酷いんだから」

う~ん、う~ん確かに。でも死ぬのが決まっているから人生楽しく過ごせる面はあるよね。死があるから生きている実感が湧くもんね。


森博嗣『クレィドゥ・ザ・スカイ』と市川拓司『Separation』

2007-06-24 11:25:41 | 小説

(中央公論社)シリーズ5冊目

Dvc00032_1 クサナギ、カンナミ登場。

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装丁も綺麗。

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Dvc00004 似非、「散香」。

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Dvc00034_1 市川拓司『Separation』原題は『君はぼくの』。

『そのときは~』の著者。恋愛物語はうまい。読んでいて切なくなる。


森博嗣『四季 冬』

2007-05-26 09:24:02 | 小説

(講談社文庫)

p245

「自分の人生を他人に干渉してもらいたい、それが、愛されたい、という言葉の意味ではありませんか?犀川先生。自分の意志で生まれてくる生命はありません。他人の干渉によって死ぬというのは、自分の意志ではなく生まれたものの、本能的な欲求ではないでしょうか?」

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「愛の反対は無関心」そういうことを言っていた人が確かにいた。愛するとは、言い換えると干渉するということだったのか。愛というあいまいな言葉を干渉といい替えるとある種の重みが加わったような気がします。


五條瑛『ROMES 06』、森博嗣『四季 秋』

2007-05-24 22:17:45 | 小説

Dvc00008 (徳間書店)

元防衛庁の情報分析官という肩書きを持つ著者。この人の作品は確か5作品目。

はずれが全く無い。

目次

プロローグ

ROMES01 監視

ROMES02 探索

ROMES03 追跡

ROMES04 警告

ROMES05 防衛

ROMES06

エピローグ

p392

「何しろ、毎日あんたと顔を突き合わせている連中でさえ、あんたという人間が分かっちゃいないんだからな」

「みんな同じだよ。誰もが腹に一物抱えて生きているが、それを表に出さないだけだ。出すには勇気と犠牲がいるからな」

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さらに

森博嗣『四季 秋』(講談社文庫)を読む。こちらも人間に対する洞察力が非常に鋭い。

とっくに個人レベルでは、もちろん人によりさえするが国境なんて越えているし、なくなっている。思考、思想こそもっとも自由なもの。行動では僅かしかそれを表現できない。アーティストは少しでも思考の多くを表現しようと抽象化した。だが受け取る側に多様性があったためにいろいろな形で受けとらられてしまう。

そう、「理解に必要な最小限の条件とは、理解しようとする意志、そして決意(p189)」であり、またそれがあると感じるならば、誠意を持って対応するべきだ。

まったくそのとおりだ。


五條瑛『J』

2007-05-20 20:48:13 | 小説

(徳間書店)

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名言

「何かを始めるのに

遅すぎることはない。

手をのばせ

世界はそこにある。

君に、家族に、自分に――。」

p181から引用

「流行は甘い毒みたいなものよ。人を蝕みこそすれ、育てはしない。誰もそのことを疑問に思っていないのね」

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東南アジアの生きていくために体を売るような状況の「子供」たちと、日本の精神的に病む「大人」。両方を引き受けてしまったことが組織崩壊の引き金となる。

東南アジア諸国と日本の関係は、途上国と先進国の関係か。理想と現実の両方を考慮しなければならない。桃源郷は、個人で努力の上で見出すものであって、人から与えられてそう思えるものではない。また努力してもそんなものないことに気づくかもしれない。そして今度はプロセスに意味を見出すかもしれない。しかし、プロセスも重要だが、結果も同じように重要だ。


森博嗣『四季 夏』

2007-05-19 10:50:00 | 小説

(講談社文庫)

森博嗣氏の作品は『スカイ・クロラ』(中公文庫)が最初に読んだ作品だった。

人間の内部の動きが巧みに詩的にそして鋭く描写されていて興味深く味わうことができた。まだこの戦闘機パイロットの話はシリーズで続いている。

四季というタイトルに惹かれて最初に『四季 春』を手にとったのだが、上記作品と似ていて非常に飽きない作品だった。

そして二作目の『四季 夏』である。

引用p25

「外部とは何ですか?」

「外部ですか・・・・・、いや、外部は、つまり、外側のことで、建築外、周囲の社会、そして自然のことだと思いますが」

「そういった概念を人が感じるとき、それは電波やケーブルを伝わってくる信号と実体は同じものです。では、外部はアンテナやケーブルの中にありますか?それでしたら、通信ケーブルという窓が開いていれば十分では?」

「しかし、今の社会は、今の人間は、まだそこまでは・・・・」

「そう、そこまでは洗練されていません。形式的には、あと数十年かかるでしょう。しかし、それがあるべき姿だということです。人の躰は、外側で周囲と接していますが、人は、頭脳によって外部を認識しています。これはすなわち、頭脳の中に、社会や自然というすべての概念が取り込まれていることに等しいのです。そうなれば、結局、その人間の外部は脳の中にこそ存在するのではありませんか? それが外側なのでは?」

p26

「ああ、そういえば、胃袋の中というのも、トポロジィ的には人間の外側だ」

p193

「ありがとう、正しいことはいつか 理解されるわ」

p244

「自分の生活に影響が及ばない範囲の心配をするのは、いったいどういうわけだろうか。自分が立ち去ったあとのストーリィを想像して、怒ったり悲しんだりする傾向も、一般的には多く観察される。それなのに、まったくすべてを想像して、怒ったり、悲しんだりはしない。実在することは確かなのに、その実在の一部にふれないかぎり、発想さえしようとしない。

 こういった傾向は、しかし、精神の安定性には寄与している。おそらくは、楽観的な遺伝子が自然淘汰の中で生き残ったためだろう。」

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このように物語の中だとはいえ、非常に鋭い人間・そのあつまりである社会に対する洞察をちりばめています。脳と感情の関係は直結しているのでしょうか。こういったことを計算することは現実問題として可能なのでしょうか。だとしたら脳と脳の直接的コミュニケーションができたら誤解という概念が意味喪失してしまいます。そうすると、矛盾も無くなり、すると人間の発展、社会の発展(技術は除き、内面が発展してきたかと言うと疑問ですが)は無くなってしまう、とまってしまうような気がします。

 さらに、そうなると過去の情報を整理してしまえば、好きなときにどこからでも完成された表現をリストから抜け出すだけでいいという状態になります。そうすると検索エンジンにかけて、コピ&ペーストして、コミュニケーションが完全成立する世の中にもなってしまう。既にその兆候は携帯をメインとした小型PCの普及によって見受けられます。

 確かに脳の中にたまったテキストを呼び出し、文章化して伝達するのとたいした違いは無いのですが。それに気づかなかっただけかも知れません。難しいですね。

 この辺は人間の身体内部の神経系統(ビルゲイツ『思考スピードの経営』に詳しく書かれています)をモデルにPCやネットワークを構築してきたことこそが大罪のような気もします。意味ない議論ですが。

 いろいろ考えることができて興味深い作品です。


森博嗣『四季 春』

2007-05-16 23:55:30 | 小説

(講談社文庫)

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Dvc00038 『四季 春』より

p268-272

「~人はみんな、自分のことを知りたくないんだ

自分のことを。

自分の存在の意味を。

知ることが恐いから。~」

いや少なくとも、俺は自分の事が知りたい。自分の

ことを知ることは他人を知ることの第一歩だと信じているから。

お釈迦様やデカルトは自分をどれくらい理解していたんだろう。

やっぱり人間理解は思考の産物なのだろうか。


真山仁 『ハゲタカ上 下』

2007-04-05 23:48:50 | 小説

バブルという自爆によって現実経済が非現実的に膨らんで10数年のときを、多くの人が失われたと表現した90年代。

その時代にニューヨークにいた柴野、そして日本に帰ってきた柴野

ジャズピアニストからゴールデンイーグルなる異名を名づけられた大手ファンドの日本法人代表鷲津

スイスの大学院でホテル経営のノウハウを学んだ老舗旅館の娘(名前??何だっけ)

表に出ることがあってはならないという個人口座を管理する三つ葉銀行の飯野

もっとも一貫性を持って行動しているのが鷲津だった。

村上何がしと重なった。

口癖は、「日本を変えてやる」だしね。


森博嗣『フラッタ・リンツ・ライフ』

2006-12-26 14:43:04 | 小説

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森博嗣『フラッタ・リンツ・ライフ』(中央公論新社)

シリーズ4作目。クサナギがキルドレから・・・・。詩のように展開される文がリズミカルでいい。

p.20

「ただ、言葉というのは、いつもこんな風に、きれいに飾って現れるものなんだ。人の心の中を見せているわけでは決してない。ただ、そんな飾られた言葉でさえも、あるいはまるで嘘であっても、飾られていることがうれしい、嘘で守ってくれたことがうれしい、と感じられるときがある。~」

p.230

僕の眼に飛び込んでくる輝きがあった。

ほんの少し右へ倒すと、自然に、世界が反対へ回る。

上が下へ、右は左へ。

空気を切る音。

フルートのような。

白い筋がすっと現れ、たなびく。

鳥だってここまでは上がってこない。

広く。

綺麗な。

空気の上澄みが、僕たちを浮かせて。

響き、叫び、唸り。

震え、擦れ、刻み。

革命も低い。

式典も低い。

どんなイベントもずっと下。

下、下、下。

ここまで上がってこない。

知っているんだ。

僕はここを知っている。

ここへ来られたことを、誇りに思って。

ここにいるすべてを敬い。

ここにいるすべてを愛し。

また、きっと、いつか、

ここへ戻ってくることを誓って。

掠め、切り、掴み、放ち。

返し、戻し、仰ぎ、潜り。

突き、抜き、振り、噛み。

撃ち、捻り、抉り、倒し。

舞え。

散れ。

砕け。

知っているんだ。

命がここにあることを。

僕の命も、

君の命も、

すべてがここにある。

ここにあった。

堕ちていった奴らの命さえも。

ここにある。

ずっと・・・。

甘く、淡く、続く、命。

赤く、熱く、迸る、血。

膨れ上がる火炎。

突き刺さった破片。

後から追ってくる爆音。

知っているんだ。

ここを。

僕は知っている。

だから、

きっと、ここでしか、僕は生きられないだろう。

空。

空。

ここでしか、知ることはできない。

p.249

人は力を持っている。

力に憧れている。

力が欲しい。

それが自由だと知っているからだ。

花束で、どんな自由が得られるだろう。

花束を持っていれば、岩を登っていけるだろうか。

花束を持っていれば、水中深く潜れるだろうか。

人を自由にするのは、力だ。

人はそれを持っている。

自分の力を信じること、それが力の意味だ。

僕は飛べる。それが僕の力であり、自由なのだ。

そして、飛び続けるために、僕は戦う。

何のためでもない。

何も欲しくない。

誰のためでもない。

誰も褒めてはくれない。

ただ、飛び続けたい。

僕が僕であり続けたい。

生きているかぎり。


森博嗣『ダウン・ツ・ヘブン』

2006-12-22 15:54:07 | 小説

森博嗣『ダウン・ツ・・ヘブン』(中央公論新社)を読んだ。

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シリーズ第三作目。

以下、メモ

まだ、読んでない方はご遠慮ください。

主人公クサナギが同職の後輩パイロットにレクチャーする場面

「みんなはコックピットの様子をここで見ていたのですね?」

「それはほとんど、参考になりません。普段は、あんなふうに優雅に飛んでいるわけでは全然ない。右を見て、左を見て、振り返って、風防に顔を押し付けて、必死になって相手を探している。Gがかかれば、さらに自由がきかない。それでも、見なくてはいけない。そして、その合間に、ときどき考える。」

「つまり、相手も、必死になって見ているんだ。必死になって、考えているんだって、そう考える。同じだ。同じコックピットが、空にもう一つあって、向こうも必死になって、飛行機を操っている。どちらか一方だけしか残れない。どちらかは飛んでいられなくなる。だから必死だ。でも・・・・、この際だから、どうせなら楽しもうって思う。一緒に手をつないで踊ろうって・・・・。ポールが立っている周りを回っていて音楽が聞こえてきて、本当に体の中から動きが浮かび出てくるような、踊りたくなるような、そういう感じになる。手を繋げば、相手の気持ちがわかって、相手の動きが自然に見えてくる。そう、そんな感じです。ごめんなさい。きっと、役には立たないでしょうね」

「どうか、立派に戦って下さい。きれいに戦って下さい。誰のためでもありません。自分自身のために」

そういった瞬間、僕の頭にはティーチャが浮かんでいた。暗い部屋の中で、煙草を吸っている彼だ。

拍手が起こった。でもずいぶん遠くから聞こえるように感じられた。」

次はこちら。

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伊坂幸太郎『』ラッシュ・ライフ』

2006-12-06 11:05:56 | 小説

伊坂幸太郎『ラッシュ・ライフ』(新潮文庫)

以下、こういう考え方もあるね。

p217~221

「世の中には、ルートばかりが溢れている、とね。そういったよ。人生という道には、標識と地図ばかりがあるのだ、と。道をはずれるための道まである。森に入っても標識は立っている。自分を見つめ直すために旅に出るのであれば、そのための本だってある。浮浪者になるためのルートだって用意されている」

「人生に抵抗するのはやめた。世の中には大きな流れがあって、それに逆らっても結局のところ押し流されてしまうものなんだ。巨大な力で生かされていることを理解すれば怖いものなどない。逃げる必要もない。俺たちは自分の意志と選択で生きていると思っていても、実際は『生かされている』んだ。そうだろう?」

「それは君が学生時代に、嫌っていた、『宗教』じゃないのかい?」

「違うよ、人生は道じゃないと、そう思うことにしただけだ」

「道じゃない?」

『人生は、道ではなく海だよ』


『嫌われ松子の一生 上・下』

2006-10-07 17:01:38 | 小説

山田宗樹『嫌われ松子の一生 上』『下』(幻冬舎文庫)を読み終える。

 主人公の川尻松子は、優秀な成績で小・中学校を卒業し、大学を出て中学校の先生になる。しかし、引率でいった修学旅行中、宿泊先で売店の売上がなくなるという問題が起こった。夕食中、トイレという理由で席を立ったということで容疑が松子のクラスの男子生徒にかかる。

 事実そうだったのだが、松子が問い詰めるも本人は認めず、松子は自分が盗んだことにしてしまい、しかも数千円(時代背景が敗戦・終戦前後の設定のため、今の貨幣価値とはかなり違う)足りなかったため、同部屋だった教員の財布から返すつもりで黙って抜き取って宿泊先側に返金してしまう。

 これが原因で松子の一生は転落していくという話。読む人によっては「①この松子って女は性悪で最悪だな、こういう人生になるのも当たり前」、また別の人によっては「この松子は純粋で人より真面目な奴、人間らしい、ただ珍しいぐらいにツキがなく可哀想な女だったんだな」という二つにわかれる感想を持つように思う。自分は後者だった。松子が何度か騙されるシーンがあるが、こんな経験がある人も実際にいるのではないかとリアルに感じた。

 人間らしさが描写された作品。


カルロス・ルイス・サフォン『風の影』

2006-10-04 23:55:41 | 小説

カルロス・ルイス・サフォン『風の影 上』『風の影 下』(集英社文庫)を読み終えた。

 今年の7月に刊行された新しい作品である。サフォンはスペイン人でハリウッド映画の脚本なども手掛けている。

 Promotionをせず、クチコミで広がってスペイン原書は空前のヒットを飛ばし、ついに日本へも上陸した。

 37カ国で翻訳出版され、フランスでは2005年に最優秀外国文学賞という賞を受賞し、この本の火がつき始めた当時、ドイツ外相ジョシカ・フィッシャーという人が、この本を絶賛して、これが広宣の役割も果たしたのか、どうかは知らないが、瞬く間にカオス理論のごとく日本ももれずに世界中を駆け抜けた。

 少年ダニエルと作家のカラックスが物語の主人公として並行的に、話は展開されていく。

 この物語はかなり、いろいろなテーマが盛り込まれている。途中は、ちょっとやりすぎでは、と思ったが、終盤は心が徐々に温まっていった。

 友情、親子愛、恋愛、憎悪、近親相姦、名作の引用、駄洒落、宗教、戦争、内戦、共産主義、富める者と貧しい者、先人たちの知恵、性の欲望、金銭の欲望などなど。

 最後には、きっちりまとめ上げられて、どんな読者の心も多少は温めてくれるだろう。

『風の影』、「忘れられた本の墓場」、これらからは、どんなイメージが浮かびますか?