<あらすじ解説>
真面目なだけが取り柄の会社員倉田太一は、ある夏の日、
駅のホームで割り込み男を注意した。
すると、その日から倉田家に対する嫌がらせが相次ぐようになる。
花壇は踏み荒らされ、 郵便ポストには瀕死の猫が投げ込まれた。
さらに、 車は傷つけられ、 部屋からは盗聴器まで見つかった。
執拗に続く攻撃から穏やかな日常を取り戻すべく、一家はストーカー
との対決を決意する。
一方、出向先のナカノ電子部品でも、倉田は営業部長に不正の
疑惑を抱いたことから窮地に追い込まれていく。
直木賞作家が、 ”身近に潜む恐怖” を描く文庫オリジナル長編。
<読後の感想>
88ページの以下の一節は、私も永年銀行で働いてきただけに同感である。
「銀行員というのは数字を見ているようでいて、結局は人を見る商売なのだ。
それは染みついた習性となって、異業種に転じたいまも健在である。」
倉田は出向先の職場ではよい部下を、自分の家庭ではよい妻子に恵まれて、
おおむね堅実な生活を送っており、共感を持てた。
推理小説としても読みごたえがあり、肩のこらない読物だった。