東京新聞 筆洗 (2007/1/14)
沖縄本島の北西部に位置する大宜味村は「日本一長寿宣言」の村…
沖縄本島の北西部に位置する大宜味村は「日本一長寿宣言」の村で知られる。記念碑には「80はサラワラビ、90となって迎えに来たら、100まで待てと追い返せ。我らは老いてますます意気盛んなり」とある。八十歳が子どもなら九十歳はまさに意気盛んだろう▼評論家の秋山ちえ子さんは十二日、九十歳の誕生日を迎え、NHKのラジオ番組に生出演した。元気な声に安心したファンも多かろう。五十七年に及ぶ「ラジオ職人」の第一線から八十八歳で身を引いた。でも職人の魂が許さなかったのか、昨春から一年に五、六回の約束で現場復帰している▼元気の秘訣(ひけつ)は種まきの楽しさがあるから。番組を聴いた人が誰かに内容を伝えることで、秋山さんのまいた種が二粒、三粒…と増えて、やがて芽を出し花を咲かせる▼誕生日にまいた種は、戦争に関する本だけを集めた図書館、図書室をあちこちにつくり、戦争のむごさを伝え続けること。「近所の子に本を読むなど、小さいことでいいから始めて」と呼びかける。秋山さんは名誉村長を務める盛岡市の障害者福祉施設「いきいき牧場」での実現を目指す▼番組では土家由岐雄さん作の「かわいそうなぞう」も朗読した。上野動物園で戦争中に象が殺された実話に基づく絵本。秋山さんは「子どもの戦争はごめんだと思う心を育てたい」と毎年八月十五日に朗読してきた▼「みなさま、ごきげんよう」。秋山さんはいつもの通り番組を終えた。二百件を超える反響があったという。やがてどんな花が咲くのか、楽しみになる。
◇
≪「80はサラワラビ、90となって迎えに来たら、100まで待てと追い返せ。我らは老いてますます意気盛んなり」≫
「サラワラビ」の言葉が面白い。
「サラ」は「サラブレッド」のサラで、「サラ新品」のサラでもある。
「サラワラビ」はチャンプルー文化の面目躍如たる、「沖縄語」。
これは上記コラムにお国言葉を書かれ、喜びの余りにインスピレーションだけで間違いの迷路にはまり込んだ話。
◇
おらが国の話題が大手の新聞に載る事は嬉しいもの。
当日記で「沖縄語講座」を連載している者としてはこれをネタに使わない手はない。
サラは沖縄語で≪新しい、とか言葉の意味を強める語≫で、
ワラビは童と書いて子供の事なので、
サラワラビは「まだまだ子供」といったニュアンスになる。
そこで語源は何かと考えたら何故か「サラブレッド」が脳裏をよぎった。
ディープ・インパクトの強烈な印象のせいか。
サラブレッド「thoroughbred」を新グローバル英和辞典でも検索してみたら
1 ((T-))サラブレッド.
2 純血種の動物.
3 ((略式))天性の素質を持った人;育ちのよい[教養のある]人;最高級車.
とある。
さらに「thorough 」には、
【まったくの, 完全な, 根っからの】という意味がある。
これだ! と思わず手を打ったのが運の尽き。
そこで何の躊躇いもなく独断の迷路に迷い込んだ。
≪沖縄語は素晴らしいチャンプルー文化語だ。≫
≪サラブレッドのサラを方言の強調の接頭語に使っているとは!≫
だが、その新発見の、・・・いや珍発見の夢は一瞬にして砕け散った。
沖縄語のサラは戦後の米軍占領下に初めて出来た新語ではなく、戦前もあったという。
調べて見たら残念ながら?サラは日本語由来であった。
「さら」は新とも更とも書く。
「さら」をさらに大辞林でも検索すると、
≪まだ一度も使っていないこと。新しいこと。また、そのもの。〔接頭〕名詞に付いて、そのものが新しいことを表す。≫とあった。
他の例として「さら湯」「さら地」「さらのゆかた」」があった。
かくしてサラワラビのサラブレッド説は一気に霧散して、
「成りたての未だ未だ子供」くらいで一件落着した。
改めて冒頭の沖縄は大宜味村の「日本一長寿宣言」の碑文に戻ろう。
「80はサラワラビ、90となって迎えに来たら、100まで待てと追い返せ。我らは老いてますます意気盛んなり」
訳文:80歳なんてまだまだガキ、・・・以下略・・・
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます