◆【日本よ】石原慎太郎 核開発の是非 (産経 06/11/06)
最近になればなるほど、昔司馬遼太郎氏がよく口にしていた言葉を思い
出す。「日本人というのは不思議な人種やなあ。多くの連中にとってある
種の観念の方が目の前の現実よりも現実的なんやから」と。
国家民族の存亡に関わる「平和」についての日本人の考え方捉え方につ
いてもしみじみそう思われる。
平和を望まぬ者などどこにもいはしまいが、「平和」とはある国家なり
社会の現実に在る姿であって、その安定した姿が確立されていなければ
「平和」は平和として成り立たない。
平和を願って成立させるためには、現実的なさまざまな配慮手立てなく
しては有り得ない。
田中美知太郎氏の至言に、「憲法で平和をいくら唱えてもそれで平和が
確立する訳はない。ならば憲法に、台風は日本に来てはならないと記すだ
けで台風が防げようか」とあったが、平和にしろ何にしろ、多くの人間が
願う理念の実現には現実的な手立ての積み重ねが要るし、それを脅かしか
ねぬものが在るとするならその排除、防御が現実の手立てとして必要とな
る筈だ。
多くの同胞を誘拐拉致し、多量の麻薬を持ちこんで売りさばき、多量の
偽ドル札を横行させている、まさに強盗に匹敵する隣国がさらに加えて核
兵器を開発して、それをかざし日本を瞬時にして火の海にもして見せると
我々を恫喝(どうかつ)している時、それを防ぐ日本なりの手立てとして
日本の核開発について議論せざるを得まいという、与党の政策責任者の中
川昭一氏の発言が、非核という理念をかざして非難されるという現象は司
馬氏の慨嘆を借りるまでもなく滑稽、愚かとしかいいようない。
ある種の理念の前では自由な現実的議論さえ封じられなくてはならぬと
いうのだろうか。
そうした非難の前提にはアメリカの核の抑止力への盲信が透けて見えもする。
核戦略の技術は刻一刻変化進歩しているが、日本人の核に関するある理
念を表象している、佐藤内閣時代にいい出された非核三原則なるものが踏
まえた当時のアメリカの核戦略の抑止力のメカニズムそのものも、NOR
AD(ノース・アメリカ・エア・デイフェンス)とSAC(ストラッジ・
エア・コマンド)の仕組みからして当時の日本には全く及ばぬものだった。
沖縄返還の際に言い出された非核三原則なるものの空虚さについて、驚
くことに日本の政治家としては初めて現地を視察した私にNORADの司
令官が明言した通り、アメリカの核戦略に関する警備体制はその名の通り
北米大陸のみを対象としたもので日本への攻撃の察知には全く役に立たな
いものでしかなかった。
当時の参院議員予算委員会で「核は作らず、持たず、持ちこませず」と
いう三原則は語呂合わせの阿呆陀羅経のようなもので、作らぬ、持たぬが
故に持ちこまさせるべきはないかと質(ただ)した私に佐藤首相は、「こ
れは国是だ」とつっぱねたが、佐藤氏の兄の安保を相務条約として改定し
た岸信介首相の所信はあくまで核二原則で、故にも日本への核の持ちこみ
是としていた。
ごく当たり前の話しで、従来現実日本に寄港するアメリカの重要艦船が
搭載している核兵器を、寄港の前にどこで外して下ろすかなどという話は
聞いたこともないし有り得る話しでもありはしない。
しかし種々技術の進歩で核兵器の運搬手段も変化し、現に支那海に遊弋
しているアメリカ原潜には迎撃困難な強力な巡航ミサイルが搭載されるよ
うになりはしているが、当のアメリカの国力の減退、孤立化傾向の中でそ
れでもなおアメリカの日本防衛のための十全なパートナーシップが期待で
きるか出来ぬかは将来論のあるところに違いない。
前にも記したが、アメリカは多量の人命の喪失に繋がる軍事的コミット
メントにはますます躊躇するだろうし、その一方中国は毛沢東以来の伝統、
半ば国是として、千万単位の人命の喪失には無頓着でしかない。
そうした状況の中でさらに強盗国家の北朝鮮までが核兵器の開発を提言
着手している現実に、日本が自力でどこまでどう対処すべきかを論じるこ
とそのものを非難するという神経は売国的とすらいえそうだ。
私がかつてアメリカの核戦略基地を視察した頃、当時の沖縄返還を巡っ
ての非核三原則とアメリカとの繊維交渉のもつれを踏まえて、毎日新聞が
日本の核保有について世論調査った結果は、その是非の数値が35対36
という際どいものだったのに驚かされた。
そしてNORADとSACの体験事実を踏まえて「非核の神話は壊れた
か」という論文を書いたことがある。
その時点では、私は条件つきで日本の核保有は得策ではないとしていた
が、日本に決して好意的とはいえぬ中国の得体の知れぬ核軍備拡張と悪意
むき出しの北朝鮮の核開発という現況の中で、その気になれば簡単に成就
可能な日本の核保有の是非について、まず議論をしてみるというのは日本
の平和と安全の確保のために当然の姿勢と思われる。
ちなみに中川氏の提言が、日本の核保有の可能性を熟知し一番恐れてい
る中国外交上にどんな影響を与えたかを眺めるがいい。
中川発言は当然のこととして中国の北朝鮮の核保有に関しての姿勢を大
きく規制したし、今後も深い影響を与えるだろう。
発言は平和という一つの重要な「現実」を形成していくために、現に強
いインパクトをもたらしているということを、平和を願う者たちこそが知
るべきなのだ。
◇
産経新聞
核論議、二階国対委員長が首相の責任論に言及
中川昭一政調会長や麻生太郎外相が核論議を提起した問題で、自民党の二階俊博国対委員長は5日、NHKの討論番組で、「誤解を招きかねない発言であり、重要な立場の人は慎むべきだ」と批判、「任命権者の責任を問われる事態になりかねない」と述べた。安倍晋三首相の任命責任に言及することで、中川氏らを強く牽制したものだが、臨時国会への影響を考慮し、核論議を押さえ込もうとする与党内の動きは週明けからさらに加速しそうだ。
「非核三原則は国是だ。日本は好戦的な国ではないとようやく理解されるようになったのに、国会中に急にこういう議論を持ち込むことについて少し考えてほしい」
二階氏が番組でこう切り出すと、公明党の漆原良夫国対委員長も「首相の指導力が問われることになりかねない」と同調。これに意を強くした野党側も「日本が核保有すべきだという誤ったメッセージを国際社会に大きく広げる」(高木義明・民主党国対委員長)、「安倍内閣は核武装検討内閣だ」(穀田恵二・共産党国対委員長)などと中川バッシングを繰り広げた。さらに野党側はこの問題に関して衆院予算委員会での集中審議を求めた。二階氏は集中審議の開催は拒否したが、「自民党は『自浄作用』を必ず発揮する」と述べ、核論議そのものが、「不浄なもの」との考えを抱いていることをうかがわせた。
核論議をめぐって、安倍首相は政府・与党内で正式に議論することはないとしながらも「議論を封殺することはできない」と述べ、自民党の中川秀直幹事長も「中長期の意見を封殺してはいけない」と同調している。
二階氏の発言は、佳境を迎えている教育基本法改正案の審議などへの影響を最小限に抑えようとの意図があるものとみられるが、逆に野党側に格好の攻撃材料を提供した形になった。
二階氏と安倍首相は、かつては対中外交や人権擁護法案への対応をめぐり対立したこともあり、「二階氏は存在感を示すために計算ずくで発言した」(自民中堅)との見方も出ている。
二階氏は5日、記者団に「国会議員に言論の自由が保障されるのは当然だが、何を言ってもいいわけではない。まあ賢明なリーダーたちなので心配ないでしょう」と語ったが、核論議で自民党幹部が野党と同調したことは、与党内の新たな波乱要因となりそうだ。
(11/05 23:08)
最近になればなるほど、昔司馬遼太郎氏がよく口にしていた言葉を思い
出す。「日本人というのは不思議な人種やなあ。多くの連中にとってある
種の観念の方が目の前の現実よりも現実的なんやから」と。
国家民族の存亡に関わる「平和」についての日本人の考え方捉え方につ
いてもしみじみそう思われる。
平和を望まぬ者などどこにもいはしまいが、「平和」とはある国家なり
社会の現実に在る姿であって、その安定した姿が確立されていなければ
「平和」は平和として成り立たない。
平和を願って成立させるためには、現実的なさまざまな配慮手立てなく
しては有り得ない。
田中美知太郎氏の至言に、「憲法で平和をいくら唱えてもそれで平和が
確立する訳はない。ならば憲法に、台風は日本に来てはならないと記すだ
けで台風が防げようか」とあったが、平和にしろ何にしろ、多くの人間が
願う理念の実現には現実的な手立ての積み重ねが要るし、それを脅かしか
ねぬものが在るとするならその排除、防御が現実の手立てとして必要とな
る筈だ。
多くの同胞を誘拐拉致し、多量の麻薬を持ちこんで売りさばき、多量の
偽ドル札を横行させている、まさに強盗に匹敵する隣国がさらに加えて核
兵器を開発して、それをかざし日本を瞬時にして火の海にもして見せると
我々を恫喝(どうかつ)している時、それを防ぐ日本なりの手立てとして
日本の核開発について議論せざるを得まいという、与党の政策責任者の中
川昭一氏の発言が、非核という理念をかざして非難されるという現象は司
馬氏の慨嘆を借りるまでもなく滑稽、愚かとしかいいようない。
ある種の理念の前では自由な現実的議論さえ封じられなくてはならぬと
いうのだろうか。
そうした非難の前提にはアメリカの核の抑止力への盲信が透けて見えもする。
核戦略の技術は刻一刻変化進歩しているが、日本人の核に関するある理
念を表象している、佐藤内閣時代にいい出された非核三原則なるものが踏
まえた当時のアメリカの核戦略の抑止力のメカニズムそのものも、NOR
AD(ノース・アメリカ・エア・デイフェンス)とSAC(ストラッジ・
エア・コマンド)の仕組みからして当時の日本には全く及ばぬものだった。
沖縄返還の際に言い出された非核三原則なるものの空虚さについて、驚
くことに日本の政治家としては初めて現地を視察した私にNORADの司
令官が明言した通り、アメリカの核戦略に関する警備体制はその名の通り
北米大陸のみを対象としたもので日本への攻撃の察知には全く役に立たな
いものでしかなかった。
当時の参院議員予算委員会で「核は作らず、持たず、持ちこませず」と
いう三原則は語呂合わせの阿呆陀羅経のようなもので、作らぬ、持たぬが
故に持ちこまさせるべきはないかと質(ただ)した私に佐藤首相は、「こ
れは国是だ」とつっぱねたが、佐藤氏の兄の安保を相務条約として改定し
た岸信介首相の所信はあくまで核二原則で、故にも日本への核の持ちこみ
是としていた。
ごく当たり前の話しで、従来現実日本に寄港するアメリカの重要艦船が
搭載している核兵器を、寄港の前にどこで外して下ろすかなどという話は
聞いたこともないし有り得る話しでもありはしない。
しかし種々技術の進歩で核兵器の運搬手段も変化し、現に支那海に遊弋
しているアメリカ原潜には迎撃困難な強力な巡航ミサイルが搭載されるよ
うになりはしているが、当のアメリカの国力の減退、孤立化傾向の中でそ
れでもなおアメリカの日本防衛のための十全なパートナーシップが期待で
きるか出来ぬかは将来論のあるところに違いない。
前にも記したが、アメリカは多量の人命の喪失に繋がる軍事的コミット
メントにはますます躊躇するだろうし、その一方中国は毛沢東以来の伝統、
半ば国是として、千万単位の人命の喪失には無頓着でしかない。
そうした状況の中でさらに強盗国家の北朝鮮までが核兵器の開発を提言
着手している現実に、日本が自力でどこまでどう対処すべきかを論じるこ
とそのものを非難するという神経は売国的とすらいえそうだ。
私がかつてアメリカの核戦略基地を視察した頃、当時の沖縄返還を巡っ
ての非核三原則とアメリカとの繊維交渉のもつれを踏まえて、毎日新聞が
日本の核保有について世論調査った結果は、その是非の数値が35対36
という際どいものだったのに驚かされた。
そしてNORADとSACの体験事実を踏まえて「非核の神話は壊れた
か」という論文を書いたことがある。
その時点では、私は条件つきで日本の核保有は得策ではないとしていた
が、日本に決して好意的とはいえぬ中国の得体の知れぬ核軍備拡張と悪意
むき出しの北朝鮮の核開発という現況の中で、その気になれば簡単に成就
可能な日本の核保有の是非について、まず議論をしてみるというのは日本
の平和と安全の確保のために当然の姿勢と思われる。
ちなみに中川氏の提言が、日本の核保有の可能性を熟知し一番恐れてい
る中国外交上にどんな影響を与えたかを眺めるがいい。
中川発言は当然のこととして中国の北朝鮮の核保有に関しての姿勢を大
きく規制したし、今後も深い影響を与えるだろう。
発言は平和という一つの重要な「現実」を形成していくために、現に強
いインパクトをもたらしているということを、平和を願う者たちこそが知
るべきなのだ。
◇
産経新聞
核論議、二階国対委員長が首相の責任論に言及
中川昭一政調会長や麻生太郎外相が核論議を提起した問題で、自民党の二階俊博国対委員長は5日、NHKの討論番組で、「誤解を招きかねない発言であり、重要な立場の人は慎むべきだ」と批判、「任命権者の責任を問われる事態になりかねない」と述べた。安倍晋三首相の任命責任に言及することで、中川氏らを強く牽制したものだが、臨時国会への影響を考慮し、核論議を押さえ込もうとする与党内の動きは週明けからさらに加速しそうだ。
「非核三原則は国是だ。日本は好戦的な国ではないとようやく理解されるようになったのに、国会中に急にこういう議論を持ち込むことについて少し考えてほしい」
二階氏が番組でこう切り出すと、公明党の漆原良夫国対委員長も「首相の指導力が問われることになりかねない」と同調。これに意を強くした野党側も「日本が核保有すべきだという誤ったメッセージを国際社会に大きく広げる」(高木義明・民主党国対委員長)、「安倍内閣は核武装検討内閣だ」(穀田恵二・共産党国対委員長)などと中川バッシングを繰り広げた。さらに野党側はこの問題に関して衆院予算委員会での集中審議を求めた。二階氏は集中審議の開催は拒否したが、「自民党は『自浄作用』を必ず発揮する」と述べ、核論議そのものが、「不浄なもの」との考えを抱いていることをうかがわせた。
核論議をめぐって、安倍首相は政府・与党内で正式に議論することはないとしながらも「議論を封殺することはできない」と述べ、自民党の中川秀直幹事長も「中長期の意見を封殺してはいけない」と同調している。
二階氏の発言は、佳境を迎えている教育基本法改正案の審議などへの影響を最小限に抑えようとの意図があるものとみられるが、逆に野党側に格好の攻撃材料を提供した形になった。
二階氏と安倍首相は、かつては対中外交や人権擁護法案への対応をめぐり対立したこともあり、「二階氏は存在感を示すために計算ずくで発言した」(自民中堅)との見方も出ている。
二階氏は5日、記者団に「国会議員に言論の自由が保障されるのは当然だが、何を言ってもいいわけではない。まあ賢明なリーダーたちなので心配ないでしょう」と語ったが、核論議で自民党幹部が野党と同調したことは、与党内の新たな波乱要因となりそうだ。
(11/05 23:08)
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