お隅は、元は谷出羽守様の家来で神崎定右衛門の子で浪々中この水街道を通り麹屋に泊まり合わせ、父定右衛門が病気で長患いで亡くなり宿の主人に世話になったので恩報じかたがた麹屋に奉公しています。惣次郎が気に入りまして贔屓にし多分の祝儀、折節は反物など持って来てやり、お隅は惣次郎を大切にしふとして縁で深い仲になります。寛政十年大生郷村天神様隣村法恩寺境内で相撲があります。ここにやって来る関取は花車重吉といい十一の時羽生村へ来て先代名主惣右衛門に二年奉公していました。ですから惣次郎も場所度に多分の祝儀を遣ります。惣次郎はお隅を連れて花車重吉をよび大生郷天神前の宇治の里という料理屋へ行きます。其処に運が悪いことにお隅を口説いて弾かれた安田一角という横曾根村の剣術家が飲んでいます。二人を見た一角は癪に障り係りあい因縁を付けようと、わざと刀の鐺を出しておき長い刀の柄前にお隅が躓きました。
これが発端で後半の長い噺が始まります。