<花の窟 はなのいわや>
熊野市の市街地からさほど離れていない場所にある、
自然信仰の聖地へ出発したのは夜明け前でした。
ちょうど花の窟のあたりでご来光を拝み、
次第に勢いを増す太陽光に背中を押される中、
まず最初に私を出迎えてくれたのは、
住宅街の一角に突如としてあらわれた、
車一台がギリギリ通れるほどの
狭く細い坂道への曲がり角でした。
崖を削って作られたようなその坂道は、
少なく見積もっても30度以上の傾斜があり、
思わずハンドルを切ることをためらうほどです。
「本当にこの道で大丈夫だろうか…」
という漠然とした不安にかられて、
再度ナビと地図を確認してみたのですが、
やはりここ以外の選択肢は見つかりません。
先日の静川・高倉神社での恐怖体験がよみがえり、
その先の展開を想像してあれこれ迷うこと約10分。
「ここまで来たら行くしかない」と意を決し、
魔の曲がり角へとやおらハンドルを切り、
アクセルを最大限に踏み込みながら
先の見えない急坂へと突入したのです。