〈SDGs✕SEIKYO〉 私が世界を変えていく2022年1月24日
SDGs(持続可能な開発目標)の達成へ、市民社会全体で取り組むことが求められています。そこで私たちが持つべき視点は何か。企画「SDGs×SEIKYO」の新連載「私が世界を変えていく」では、SDGsを一歩前進させる方途を、池田先生の思想と行動を通して考えていきます。
他者の苦しみを「自分ごと」に
捉えられる青年を育てること
1983年6月21日、旅先のアメリカからパリまで駆け付けたペッチェイ博士を池田先生ご夫妻が笑顔で迎える。この日が5度目の語らいに
「成長の限界」という警鐘
地球温暖化の原因が「人間」の活動にあることは、疑いの余地がない――これは、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が昨年に公表した報告書である。
これまでも主たる原因が人間にある“可能性”は指摘されてきたが、“断定”されたのは初めて。今後も化石燃料などによるエネルギーの大量消費が続く限り、地球の未来はない。人類は、現代の経済活動やライフスタイルを支える価値観の変革を迫られている。
この危機感を50年前に抱き、警鐘を鳴らした団体がある。世界的なシンクタンク(頭脳集団)である「ローマクラブ」だ。1972年に「成長の限界」と題するリポートを発表。このまま人口増大と工業投資が続けば、食糧不足、資源の枯渇、汚染の増大によって、人類社会は100年以内に「成長の限界」に達し、その生存条件ですら脅かされると警告したのである。
同じ年、池田先生は世界的な歴史学者トインビー博士との対談を開始した。人類の行く末に悲観的な見方を示す識者もいた中で、二人は、人類が自らの選択で未来を切り開く可能性に言及する。
「未来を切り開く鍵」として両者が一致したのは、人間の自己中心性を克服し、一人一人の行動の変革を促す宗教の必要性だった。「人類の生存に対する現代の脅威は、人間一人一人の心の中の革命的な変革によってのみ、取り除くことができる」(トインビー博士)
2年越しの語らいの後、博士は自らの友人の名前をメモに記し、“お会いしていただければ”と望んで、池田先生に託している。その友人の一人が、ローマクラブの創立者アウレリオ・ペッチェイ博士だった。
先生との対談が実現したのは1975年。その模様を題材にして地球の未来を展望する場面が、小説『新・人間革命』第21巻「共鳴音」の章に描かれている。
内田健一郎画
ローマクラブ創立者 アウレリオ・ペッチェイ博士との語らいから
【小説『新・人間革命』第21巻「共鳴音」の章に描かれた場面】
1975年はSGI(創価学会インタナショナル)が発足した年でもあった。1月26日にグアムで行われた「世界平和会議」で山本伸一はSGI会長に就任。ペッチェイ博士がメッセージを寄せている。人間革命を基調として世界平和を目指す学会の活動に、博士はかねて共感を抱いていたのである。翌2月、博士から伸一に会談を希望する書簡が届く。5月16日、イタリアから遠路、伸一のいるフランスのパリ会館を訪れた博士の手には、伸一の小説『人間革命』の英語版が携えられていた――。
種を蒔かずしては!
「それは、人間自身のエゴです」――地球的規模での危機的状況を招いた根本要因を、博士はこう指摘した。「人類の繁栄と幸福のためには、人間革命が必要なのです。それが人類の未来を決定します」
伸一は仏法の視座から、真実の幸福と人間革命の関係について語る。
「仏法は、人間が欲望に支配され、物質的・環境的条件の充足による幸福の追求にとらわれている限り、真実の幸福はないと教えています。そして、利己的な欲望や本能的衝動に支配されない主体性を確立し、他者と協調し、自然と調和していく生き方にこそ、幸福実現の道があることを説いています。その生き方は、人間の生命に内在し、宇宙万物を統合する永遠の法則に融合を求めていくなかで確立されていくものであり、そこに人間革命の道があると、仏法では教えているんです」
博士は尋ねた。「人類の人間革命を成し遂げていくには、どれぐらいの時間が必要でしょうか」。多くの難問を抱える今、人間自身の変革を100年も待つことなど、とてもできない。急がねばならない――と。
伸一は答えた。「人間を変革する運動は漸進的です。かなりの時を要します。しかし、行動せずしては、種を蒔かずしては、事態は開けません。私は、今世紀に解決の端緒だけは開きたいと思っています。そのために、これまでにも増して、さまざまな角度から、さらに提言を重ね、警鐘を発していく決意です。また、エゴイズムの根本的な解決のために、私どもの人間革命運動に、一段と力を注ぎます」
その後も、二人は東京やイタリアなどで語らいを重ね、内容は対談集に結実した。タイトルは『手遅れにならないうちに』(邦題『21世紀への警鐘』)。現在までに17の言語で発刊されている。
博士は晩年、子息にこう語っていたという。「世界を変革できるのは、青年だよ。青年の人間革命によって、世界は変わるんだよ」
経済の成長に限界はあるが、人間の学びに限界はない。外の資源は有限だが、人間の内なる富は無限である――それを引き出す人間革命の実践を、博士は青年に期待した。伸一は博士との約束を守るため、現実の上で具体的な行動を重ねていく。
昨年11月、イギリス・グラスゴー市内で行われたCOP26に合わせて開幕した「希望と行動の種子」展。「持続可能な開発のための教育」を進めるため、SGIと地球憲章インタナショナルが共同制作した
Action 何ができるか――持続可能な社会の創り手に
池田先生は1983年以来、毎年、1・26「SGIの日」に寄せて記念提言を発表してきた。
2016年の提言では、国連がSDGsの基本理念として掲げた「誰も置き去りにしない」との誓いに言及。「胸を痛める心」「『同苦』の生命感覚を基盤とすること」「関係性への『想像力』」「背景や原因を見つめるまなざし」等の表現を通して、苦しんでいる人を“他者”とは捉えず、自分の身に引き寄せて考える教育の重要性を訴えた。そして「変革の世代」である青年たちの誓いと行動に、人類の未来を決する鍵があると強調したのである。
「持続可能な開発」とは「将来の世代がそのニーズを満たせる能力を損なうことなしに、現在のニーズを満たす開発」と定義されている。SDGsといっても、その営みが一過性ではなく、何年何十年と続くものでなければ、持続可能な地球は保証されない。私たち大人が“今”できる取り組みを着実に為すとともに、“未来”世代である青年や子どもたちを「持続可能な社会の創り手」として育んでいくことが、同時に不可欠といえよう。
国連がESD(持続可能な開発のための教育)を推進してきた理由も、それが、SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」として位置付けられているからだけではない。第74回国連総会(2019年)において、ESDは「SDGsの17ある全ての目標の実現に寄与するもの」と確認されたからだ。
社会の片隅で苦しんでいる人の存在を「自分ごと」として捉えられる同苦の心。未来を生きる全ての人々に思いをはせる想像力。そして、今いる場所から変革への一歩を踏み出す勇気――。こうした心と力を持つ青年を育んでいくことは、そのままSDGsの前進につながっていくのである。
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