とんびの視点

まとはづれなことばかり

矛盾を抱え込む

2016年09月06日 | 仕事のこと
ひとつの基準でものごとを測ることは、考えではなく、たんなる処理です。 た
とえば、組織の中の人間を背の順に並べるというのはたんなる処理です。 優し
い順だと、ちょっと明晰さは欠けますが、これも基本的には処理です。

では「背の高さ」と「優しさ」を合わせて順番に並べてくださいと言われたらど
うでしょう。 何かがぶつかりますね。ぶつかると、たんなる処理はできなくな
ります。 何かがぶつかり、処理ができない、答えが出ない状況になる。

この「わからない」という状況をゴールとしてとらえてしまうか、 「考える」
ためのスタートとしてとらえるか、それによって大きな違いが出てきます。
オートマチックに処理できるのは作業であって、考えではありません。 処理が
できず、頭が止まったところから考えが始まります。

何が言いたいか。

どんなものごとであっても、それに取り組むには、複数の基準を同時に持ち込む
のが良い。 矛盾を抱え込みながら進むのが良い。 なぜなら、たんなる処理に流
れず、考えることができるからです。考えないでものごとをやり過ごしている
と、考える力は身に付きません。 考える力がないと、いざというときも処理し
かできないようになってしまいます。 抜け出せないサーキットにはまります。

たとえば、組織で人を育てることを例にとります。 世の中では、多くの組織が
即戦力を求めて人を採用します。 現場で人が足りないからです。 (現場で人が
足りているのに採用できるような会社はあまりないはずです)

即戦力というのはすぐに現場で仕事ができる人です。 もちろん、あらゆる場面
で即戦力になれる人はまれです。 多くの場合は、経験があまりない人を採用し
て、 現場ですぐにできることを教えて、やってもらうことになる。

目の前にある作業のうち急ぎで、簡単に身に付けられることを教える。 それで
当面、仕事をしてもらう。 こういうことが繰り返されることになります。 これ
自体は悪いことではありません。必要なときもあるでしょう。 ただ、このやり
方だけだと、それはある種の処理となります。

そうするとどうなるか。

自分がその分野で一人前になるために必要な技術の全体像がいつまでたっても見
えない。 将来的に自分が何を身に付けなければならないかが分からない。 本
来、どんな順番で技術を身に付けることが必要なのかの見取り図がない。 見取
り図がないから、自分がどの段階にいるのか見えない。計画的に何かを身に付け
ている感覚が持てない。 つまり、広い視野と長期的な計画がないままで日々を
過ごすことになります。

広い視野と長期的な計画がなく、日々、目の前の仕事をこなすために、 小出し
に何かを身に付けている人間がどんな成長を遂げるのか。 よほど状況が良くな
いと、あまり期待は出来ないでしょう。

組織が人に求めるものは、技術だけではありません。 その内容が漠然としてい
る「ヒューマンスキル」というものがあります。 コミュニケーション力、マネ
ジメント力、調整力、交渉力、ヒアリング力などなど。 組織が求める即戦力と
言われる人が持っているようなものです。

こういうものは、本を読めば一応のことは書いてあるし、理解もできます。 し
かし知識を身に付ければ、その力が発揮されるものではありません。 知識を意
識しながら、日々のやり取りなのかで、質の良い失敗を重ねることが必要です。
成果が見えにくいことです。でも、長期的に取り組まねば手に入りません。

では、組織は採用した人のヒューマンスキルだけを長期的に育てればよいのか。
それもだめです。それだと、やはり一つの基準で処理しているのにすぎません。

そうすると、短期的に身に付けられ、現場ですぐに役立つ技術と、 一人前の技
術を身に付けさせるための具体的で長期的な計画と、 成果が確認しにくい
ヒューマンスキルを身に付けさせる長期的な取り組み、 これらを同時にやらね
ばなりません。

つまり、人を育てるためには1つの基準では無理なのです。 短期と長期、技術
とヒューマンスキル、基準の異なるものとに同時に取り組まねばなりません。な
かなか困難です。一瞬、頭がとまります。
でもそこはゴールではありません。そこが「考える」ためのスタートなのです。

考えるというのは自分の中に「矛盾」を抱え込むことです。 それはひとつのこ
とに取り組むときに、複数の基準を抱え込むことです。矛盾を抱え込めないと、
何かトラブルがあった時に、原因を自分の外に求めるようになります。それが進
むと、自分は正しく、間違っているのはつねに相手だ、と言う人間になってしま
います。

そういう人って、めんどくさいですね。そうならないよう、矛盾を抱え込める強
さを持ちましょう。