興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

カウンセリングの実際問題 その1:近くに(良い)カウンセラーがいなくてカウンセリングが受けられない

2012-07-17 | プチ臨床心理学

 まだまだ心理カウンセリングが普及しているとは言い難いわが国日本では、せっかくカウンセリングに興味を持って、いざカウンセリングを受けようと思ったときに、近くにまったくカウンセラーがいない、また、良いカウンセラーが見つからない、という悩みをしばしば聞きます。こうした状況で、実際どうしたらよいのでしょう。

 心理カウンセリングは、本物(Authentic)の、良い治療関係がすべてと言っても過言ではないくらいに重要であるため、そのためにも、治療者と直接セラピールームで会うことを、週一回、首尾一貫して続けていくのが理想です(症状によっては週に2回以上会ったりします)。

 しかし、物理的な理由でやむを得ない場合は、スカイプを利用するという方法が考えられます。

 スカイプの利点は、電話やEmailやチャットなどで失われてしまう、非言語的情報(カウンセラーとクライアントの表情、しぐさ、無意識の身振り手振り)、声のトーンなどが生きていますし、また、声のトーン、沈黙などの意味や性質が、電話と比べて、より正確に互いにコミュニケートされるので、誤解も少なく、それだけ治療関係も安定します。

 心理カウンセリングのパラドックスは、それが「Talk therapy」と呼ばれるほど、対話が中心である反面、クライアンとカウンセラーは、その少なくとも60%(80%という人もいます)を非言語的メッセージでコミュニケートしています(脚注1)。

 そういうわけで、実際に会うのが一番良く、それが駄目なればスカイプ、ということになるのです。ただ、スカイプがいつでも利用可能というわけではないので、それが難しいようであれば、電話のカウンセリングを提供している心理カウンセラーを見つけて、カウンセリングを行う、という方法も考えられます。

 電話は、相手の表情や身振りやしぐさが見えない、というデメリットがありますが、声の感じなど分かるので、Emailや手紙と比べると効果的です。また、極端に不安が強かったり、鬱がひどかったりしてセラピールームに行ったり他者と会うのがどうしても困難な方にとって、電話は、直接会ったりスカイプしたりすることと比べて緊張感が少なく敷居が低かったりもするので、一概に電話よりスカイプや普通の面接が良いとはいえません。ただ、一般的に治療の効果としては、1)直接会う、2)スカイプ、3)電話、4)Email、の順であると言えるでしょう。

 また、長期の通院が無理の場合も、最初の数回、心理士と直接会ってカウンセリングをし、ある程度きちんとした治療関係が築けた後でスカイプ、若しくは電話に持っていく、という可能性もあり、これは、はじめからスカイプ、電話で始めるよりも効果的なことが多いです(もっとも、私の経験からすると、一度もあったことなく初回からスカイプのビデオ通話で特に問題もなく良い治療関係が築ける場合がほとんどなので、セラピスト側のスカイプというツールに対する慣れや親しみ度、経験値なども大きいように思います。私もかつては対面のほうがずっとやりやすかったです。同業の方で、腕は確かだけれど、スカイプに馴染みがないため、フルセッションはきついとか、実際に会ったことのない人とは行わない、という方は多いです)。

 余談になりますが、文章を書くのが得意な人、好きな人、多忙でどうしても治療室に行く時間がない人にとって、メールセラピー、手紙療法(Letter therapy)はオプションとして使われたりします。それから、顔が見えない電話でも、リアルタイムで治療者と対話することに抵抗のある方にも、メールセラピーは向いています。手紙療法の歴史は意外と深く、たとえばわが国では森田療法の森田正馬が20世紀前半に行っていた往復書簡が好例です。現在では、Emailによるクライアントとセラピストのやりとりが封書によるやりとりに取って代わる手紙療法になりつつあります。

 まとめますと、たとえ近くにセラピストがいない状況でも、いろいろなオプションがあり、カウンセリングをしたい、プロフェッショナルのヘルプが必要だ、と感じたとき、いろいろな不自由がありながらもここで挙げたようなことをはじめてみるのが良いです。はじめてみると、自ずと道が開けることが少なからずあります。

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(脚注1)これは一般のあらゆる人間関係に言えることで、われわれは言葉を使ってコミュニケーションを取っているつもりで、その大半は、無意識の、あらゆる非言語的、また、話の内容ではなく声のトーン、テンポ、その声と表情がいかに一致しているか、不一致か、など、あらゆる「非文脈的」な情報で伝え合っているのです。




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2 コメント

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Unknown (Nancy)
2012-07-24 04:35:32
Yodakaさんご無沙汰しております。
暑中お見舞い申し上げます。
痛ましいコロラドの映画館襲撃事件ですが、
人間はいつどのようにして精神が壊れてしまうのか、
なんとも悲しい出来事だと思いました。
彼は人間の深層心理などを勉強していくうちに
自分自身の扱い方までよく分らなくなってしまったのでしょうか。
犠牲者の方々ご冥福をお祈りいたします。
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Unknown (Yodaka)
2012-07-26 15:15:15
Nancyさん:

ご無沙汰しております。今年の夏はなんだか暑いのだか涼しいのだかよく分かりません。クリニックは冷蔵庫のように冷房が効いていて鳥肌が立つ状態なので、ますます良く分かりません。そのうえ扇風機をつけるアメリカ人の体感気温もよくわかりません。

コロラドの乱射事件はなんとも悲惨なものですね。知り合いの旦那さんがコロラドのかの街出身で、そこは実際とても平和で安全な街だということでした。その日が誕生日でBirthdayを祝っていて殺された男性は彼の知り合いで、その男性はFacebookで、「人生最高のBirthday」と書いていた矢先に起きた出来事だったようです。

加害者の男性は、神経科学の勉強の過程でおかしくなった可能性はあまりなさそうです。むしろ、彼には幼少期から現在に至るまでの様々な経験で常人には考えられないような人格の歪みが生じたのだと思います。ただ、博士課程の、人間関係を含む研究などのストレスが悪い刺激になった可能性は十分にあると思います。彼のような人間の一番恐ろしいのは、恐ろしく歪んだ認知、思考、信念を抱きつつそれを実行できてしまう現実検討能力、知能、知識、行動力があるところです。アメリカの臨床心理学と治療のシステムは世界最高水準だけれど、拳銃の法律を改正しない限り、このような事件は必ず近未来に起きるだろうし、その法律を変えられない、変えようとしない人が大勢いる限り、このような悲劇は続いていくと思います。なんともやりきれない現実です。
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