最近は日本語の対義語などについて頭の片隅においていると何かと言葉から問いかけられることが多くなりました。
テレビのクイズ番組を見ていると「日本好き外国人が間違いやすい日本語」についてクイズ形式で紹介と解説がなされていました。解説されていたのは、東京大学とハーバード大学を同時合格するという偉業を成し遂げたモーリー・ロバートソンさん。番組では超天才外国人と紹介されていましたが、確かにすごい人です。
まず前半の言葉は、
1 そめる
● 着物をそめる。(着物に色を染める)
● 悪に手をそめる。(何か新しいことを始める)
その他 都会の絵の具に染まらないで帰って(太田裕美の唄)
2 わらう
● 上田(クリームシチュー)の顔でわらう。(顔の筋肉が緩んで表情が崩れる)
● ひざがわらう。(膝のあたりの筋肉が緩んでひざがフラフラする感覚)
外国人は、ひざが笑うわけがないのに、と疑問に思う。
英語だとknees are shaking(ひざが震える) knees giving way(立てなくな る)という表現になる。「ひざがわらう」は英語の発想だと思いつかない。
3 かみくだく
● アメ玉をかみくだく。(口の中だアメ玉をかみ砕いてのみ込みやすくする)
● 話をかみくだく。(かたい話をのみ込みやすくする)
これは日本語らしい緻密な比喩表現になっている。
4 ひそめる
● 息をひそめる。
● 眉をひそめる。
「ひそめる」は音や声を小さくする、という意味から発生して眉の間の距離を小さくする、ということに変化をし、他人の行為に不満を感じて眉根を寄せることになる。
同じ言葉でも意味が全く違く日本語は奥深い、とのことでした。
5 くすぐる
● 脇の下をくすぐる。(他人の脇などを刺激して笑いたくなるような感覚)
● 母性本能をくすぐる。(子どもを抱くような守りたい・育てたい感情)
この漢字は「擽る」で手偏に楽しい。手でくすぐって楽しむ様子を表した漢字。
6 すいあげる
● 水をすいあげる。
● 意見をすいあげる。(部長や社長のような上位の人間が取り上げて役立てるという 意味)
意見を取り上げるという表現と同じような状況で使われる。が「すいあげる」の方がより下位から上位への意見が伝わり、具体的な意見を取り入れ方を表すことができる。
以上の6つの言葉で同じ発声音で別意味を表し、外国人にはなかなか理解できないそうです。
後半では「くり返し言葉」が問題形式で紹介されていました。
1 カチカチ
● 冷凍マグロの硬さ
● メトロノームの音
外国人が日本語を学んでいる時に「日本語はすごいな」と感心してしまうのが「ガヤガヤ」「ワイワイ」なのどくり返し言葉。これぞ日本語の奥深さと感じられる面白い言葉でもある、ということです。
2 ガラガラ
● 列車の客席が少ない時
● 抽選・くじ引きのドラムを回すときの音
日本最古の文献に属する古事記の中に塩の海をかき回すときに「こをろ こをろ」という音を立てたという描写がある。このようにくり返し言葉は、日本語の歴史とともに長く存在し続けたということになる、ということです。
3 パラパラ
● 辞書のページをめくる様子
● チャーハンのお米の状態
パラパラのチャーハンはおいしい表現、でも一音違う「パサパサ」だとまずい表現になってしまう。
4 ツルツル
● アイスリンクで滑る際の氷上の状態
● 麺類を食べる時の表現
全く異なる状況、状態なのに同じ言葉表現をする。
麺類を一つ食する際に「ズルズル」「スルスル」「はふはふ」というくり返し言葉で表現することができる。英語など他の言語にはあまりない。
5 「ギラギラ」「キラキラ」
● 太陽が天球で輝いている状態の表現
● 夜空の星が天空で輝いている状態の表現
昼間と夜という、真逆の太陽と月の輝き、これを濁点をつけるだけで表現できるところが面白い。太陽を「ギラギラ」と表現すると今年の夏のような「たまらん!」という猛暑を連想させますが、これを「さんさん」と表現すると穏やかな心地よさを感じられる。そしてくり返し言葉ひとつで、気候の違いもできる日本語、繊細で面白い、とのこと。
※番組で「さんさん」と平仮名でテロップ、確かにカタカナの「サンサン」では微妙に感じ方が異なります。
6 「フカフカ」「ブカブカ」
● 柔軟剤で柔らかなタオルケット様のものに頬をつけた時
● 腰回りの隙間が大きいGパンなどを穿いた場合
「フカフカ」という気持ち良さを表す表現に濁点をつけた「ブカブカ」という不快な気持ちを表す言葉に変化する日本語、外国人にはなかなか理解できない。
さらに、半濁点をつけ「プカプカ」となると「フカフカ」「ブカブカ」とは全く関連性のない言葉に変化する、こうなると普通の外国人にはお手上げだとのこと。
7 「どろどろ」「とろとろ」
「とろとろ」というくり返し言葉は見た目をそれとなく表現したもの。「どろどろ」は「泥」という名詞を二つ重ねて言葉にした言葉で、外国人には訳の分からない言葉だそうです。
以上の前後半に分かれ外国人には理解が難しい言葉が紹介されていました。
今回は対義語的な感覚とはやや異なりますが感覚表現の展開という面に視点をおくと、また違った面白い思考が発見できそうです。
前半は同一の発音語から感覚的な意味の移行と言ったところでしょうか。これについては後でまた書いてみたいと思います。
後半は、擬態語、擬音語、擬声語などの日本語のオノマトペの表現の豊かさを語る内容と言ってもいいかもしれません。
さて前半の言葉群についてですが、「すずしい」という言葉があります。漢字に転換すると「涼しい」となります。
例とすれば、
● 風鈴の音(ね)が涼しさを伝える。
とこの「すずしい」を使い涼感を感じていることが分かります。その同一発音語を涼感のさわやかさからは真逆的な悪態の現れを表現するときに使われている場合があります。
● あの政治家は、世間に知れ渡った不道徳者なのに涼しい顔をしている。
この「すずしい」には、人格の現れが、醜態をさらしているに移行しそこから醸し出ている雰囲気の風波の体感的な表現・・・と、なんとも理解を表現しずらいのですが、しかし大半の日本人には意味が伝わる共有感覚語です。
しかし、この「涼しい顔」には醜態ばかりではなく愛嬌を含む場合もあります。少し間の悪い人が失策をしたが、何事もなかったのかの如くしている時の「涼しい顔」は、不道徳には至らない、まさに愛嬌と解釈できるものかと思います。
以前古書の吉村冬彦著『蒸發皿』(岩波書店昭8)にこの「涼しい」という言葉に相当する外国語はないと書かれていたのを思い出します。
それを思い出すと、これは失礼にあたるかもしれませんが、トランプ氏やゴーン氏の顔には「涼しい顔」表現は映えず、失礼ながら彼らの顔にはそのままが現れています。それに反し、中国主席や報道官、韓国大統領にはこの「涼しい顔」がまさに的中しているかのごとく現象しています。私の個人的な特殊な話でアジア人顔の共通基盤があるからでしょうか。同じアジア人です「涼しい顔」をせず、もう少し仲良くしてもらいたいものです。
「涼しい」の「涼」は漢字ですから中国語ですが、「暖和」と同字で気温などの高低を表現する際に使用し、涼風のさわやかさはないようです。
ということで今回は対義語の話ではありませんが、思考転回を自然にうながす同一同音語と若干ですがオノマトペについて書きました。