静かな不思議な映画です。愛する人との別離・諦観・切なさ・喜びを謳い上げた作品です。ただ映画的手法がちょっと度肝を抜く感じなので、少々驚く。
あのシーツをかぶった男の哀しみが空いた目の空間から浮かんでは消える。
シンプルな映画です。男と女の愛の生活は男の不慮の死により、断ち切られる。女はしばらくは立ち直れないが、それでも前に向かって進もうとする。普通の映画はそこで終わるのだが、この映画はそこから始まるのだ。
男は病院のシーツをかぶったまま、家に戻り女と共棲する。女は気づかない。男は家にとどまるが、家は取り壊され、ビルに建て替わる。それでも男はそこに住み着いている。
男は過去に遡ることもできる。アメリカの原住民の生活にまで戻る。そして彼らの悲惨な死を見てしまう。人類は愛という名のもと、殺戮の歴史を経て現代に至っているのだ。人間の生と死のはかない営みは、しかし宇宙的な規模から考えると、永遠のものでもなく、いつか終わってしまうものなのだ。それでも人間は生きてゆくしかない、、。
と、この映画は静かに僕らに伝えている。このシーツに覆われた男も、壁に隠された女からのメッセージを見たとたん、宇宙の塵となり消滅してしまう。美しいラストである。
死にきれない男からの目線で1本の映画を描き切った不思議な作品です。僕らもひょっとしたら、ただ彼らを見えていないだけかもしれないですね。優しい気持ちになれる作品でした。
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