セントの映画・小演劇 150本

観賞数 2024年 映画 86本、 演劇 63本

魚クラブ『一家団欒』(作:大竹野正典 演出:昇竜之助)(於・ウイングフィールド) 85点

2016-07-18 18:20:19 | 演劇遍歴

劇場に入り、何といっても、まず美術が素晴らしい。壁画というべきか、それは日本的であるが、しかし少々毒々しい。死後の場所を暗示しているらしい。そこにある夫婦が傘をそれぞれさして息子の話をする、、(傘が色彩的にも美しい)。

この夫婦は金属バットで息子に撲殺されたという。その息子が黄泉の世界に52年ぶりに帰って来る。燐家にも問題を掲げた家族がおり、息子は予備校に行くことを拒否し、ドラえもんをうまく操って憂さを晴らしているらしい。

このドラエモンとその取り巻きは最初浮いているような気もしたが、そのうち馴染んでくるととても全体の中での位置が明瞭に分かってきて、黄泉の世界をよりよく表現していることが分かる。

生きていてこの世の地獄とはよく言うが、死んでも現世の地獄はなお続く。何もないはずの死後の世界が実は現実とそれほど相違のないものだったとは、驚く。やりきれない。それでも地獄であることは否定せず、黄泉の世界での再生に死人は導かれてゆくのだ。

あまり見たことのない演劇である。それだけに目の前に繰り広げられていることが全部新鮮だ。地獄図を見るように残酷なはずなんだが、意外と明るくそれほど深刻にならない。息子になぜ殺されたかなどの愚問は発しない。そこが救われる。

冒頭の壁画もそのういち入れ替えられ、そこには荘厳たる無上の世界が出現している。凄い演劇である。ラストは出演者の遠吠えが高く大きく響き、感動の山が僕を襲う。

前作「Kのトランク」は暗く、そのコメディタッチは逆に怖さを投影していたが、今回はスケールが一つ二つ大きくなった感がある。

結局息子に殺され崩壊した家族も、黄泉の世界でも再生は可能なんだ。でも考えたらそれも大変だね。死んで苦悩が尽きることはないのだから、、。

俳優陣はみんな熱演。端役に至るまでピシッと決めていた。秀作でした。

劇場を後にすると、どうやら大阪も梅雨が明けたようだ。長い過酷な夏の到来です。日常の現実に戻り、こちらも大変です。


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