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自縄自縛日記

杉山正明『モンゴル帝国と長いその後』

2016-05-13 22:16:06 | 北アジア・中央アジア

杉山正明『モンゴル帝国と長いその後』(講談社学術文庫、原著2008年)を読む。

モンゴル帝国は「帝国」とは言え、近現代から想像するようなものではなかった。血縁を重視し、簡単に裏切ることのない統制の取れたかたまりである「ウルス」がゆるやかに連携しながら並び立ち、ユーラシアを席捲した。その歴史的なインパクトはあまりにも大きく、ヨーロッパからみた歴史でもなく、また「元朝」と称するような中国からみた歴史でも、視線としては偏っている。この「杉山史観」はとても魅力的で、従来の歴史に対する視線を「本当に本当か」と詰める。

史観がどうあれ、13世紀を中心に、東アジアの大元ウルス、中東のフレグ・ウルス、ロシア~東欧のジョチ・ウルス、中央アジアのチャガタイ・ウルスがそれぞれ支配域を確立し、凄まじい広さをモンゴルの息がかかった地域とした。そして、一時代のあだ花ではなく、たとえば、インドのムガール帝国も、ティムールを介したモンゴル後継国家とみなすなど(モンゴル→ムガール)、その影響を非常に大きなものとしている。

面白いのはそれにとどまらない。資本主義の源流を銀による大元ウルスの経済システムに見出すこと、大元ウルスにとってかわった明朝が内向きの支配体制を取ったために、海からの世界支配がアジアでなくヨーロッパによるものになったことなど、とても興味深い。このような俯瞰する視線であれば、アメリカの世紀も未来永劫に続くわけでないと捉えるべきであるように思えてくる。

●参照
杉山正明『クビライの挑戦』
白石典之『チンギス・カン』
姫田光義編『北・東北アジア地域交流史』
岡田英弘『世界史の誕生 モンゴルの発展と伝統』
田中克彦『草原の革命家たち』
木村毅『モンゴルの民主革命 ―1990年春―』
今西錦司『遊牧論そのほか』


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