Sightsong

自縄自縛日記

白石典之『チンギス・カン』

2014-03-28 07:09:10 | 北アジア・中央アジア

白石典之『チンギス・カン ”蒼き狼”の実像』(中公新書、2006年)を読む。

「チンギス・カン」なのか、「チンギス・カーン」なのか、「チンギス・ハーン」なのか。「カン」は長や王の意であり、「カーン」「ハーン」はさらに崇め奉る皇帝の意である。本書によると、チンギスが大モンゴルを形成していった時代、呼称はあくまで前者であり、後世の者がチンギスを神格化した結果の呼称が後者であるという。

このことでもわかるように、本書は、大きな物語によってチンギスを描くものではない。むしろ、食べたもの、住んだところ、親族間の確執、周辺を攻める際の戦略など、実際の人間像に迫ろうとしている。

また、この時代(13世紀前後)において、戦争で優位に立つためには鉄資源が必要であり、それがモンゴル高原にはなかったのだとする指摘は、とても興味深い。

チンギスの死後、モンゴルにおける権力争いだけでなく、さらに清朝の支配、中国国民党の活動、関東軍の活動、中国共産党の支配に至るまで、チンギス聖廟の扱い、すなわち、「正統性」が常に重要視されてきたという。これこそが、チンギスの存在の大きさを示すものだといえる。もちろん、現代モンゴルにおいても然りである。ちょうど、昨年訪れたウランバートルでも、中心部のスフバートル広場が、その名前をチンギス広場と変えたばかりでもあった。 

●参照
岡田英弘『世界史の誕生 モンゴルの発展と伝統』
杉山正明『クビライの挑戦』
姫田光義編『北・東北アジア地域交流史』
2013年11月、ウランバートル


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