Sightsong

自縄自縛日記

ユルマズ・ギュネイ(1) 『路(Yol)』

2009-10-18 22:07:40 | 中東・アフリカ

円高の内にと思い、トルコ製のユルマズ・ギュネイのDVDボックスを買ってしまった。5作品で50ドル未満だから、まあ買い得である。英語字幕が入っているが、1枚だけトルコ語のみ(これは雰囲気を観るしかない)。

クルド人として生まれたギュネイは、俳優としてスタートし、のちに監督として多くの作品を撮っている。一方では反国家危険分子として3度投獄され、合計12年間の獄中生活を送っている(求刑を通算すると100年を超える)。獄中でも写真、録音などを受け取りつつ監督として指示していた。

トルコ国内でも相当の人気があったようで、意識は常に民衆の側にあったと評価されている。このような社会の不公平性への視点を強く打ち出す者は、軍の力が強かった政治とは相容れないものだったのだろう。

「芸術は一般に階級闘争の要素であり、他の芸術のように映画はこの闘争に貢献しなければならないと私は考えています。この意味ですべての芸術家は戦士であり、私の映画が戦闘的映画であると同様に、私はさらにこの道を歩んでいこうと考えています。」
(ユルマズ・ギュネイ「セルフポートレイト」、『ユルマズ・ギュネイ リアリズムの詩的飛躍』(欧日協会・ユーロスペース、1985年)所収)

ギュネイの代表作は以下の通りである。(DVDボックスに収録されている作品は★印)

?(Hudutların Kanunu) 1960年代 ★
 他、60年代にも作品
希望(Umut) 1970年 ★
エレジー(Agit) 1971年
歩兵オスマン(Piyade Osman) 1970年
七人の疲れた人びと(Yedi belalıar) 1970年
逃亡者たち(Kacaklar) 1971年
高利貸し(Vurguncular) 1971年
いましめ(Ibret) 1971年
明日は最後の日(Yarin son gundur) 1971年
絶望の人びと(Umutsuzlar) 1971年
苦難(Acı) 1971年
父(Baba) 1971年
友(Arkadas) 1974年
不安(Endise) 1974年
不幸な人々(Zavallılar) 1975年
群れ(Sürü) 1978年(獄中監督) ★
敵(Düsman) 1979年(獄中監督)
路(Yol) 1982年(獄中監督) ★
壁(Duvar) 1983年 ★

最初に、唯一知っていた『路(Yol)』を観た。

刑務所の囚人たち。家族や恋人からの手紙を待ちわびて暮らしている。そんな彼らに、期限付きでの仮釈放の許可が出た。それぞれ自分の家に帰るが、何年もの月日が待つ者に与えた影響は大きかった。ある男は、妻の親兄弟から恥だ敵だと罵られる。そして別の男の妻は、娼婦となり、気付いた親に連れ戻され、鎖を付けて監禁されている。極寒の雪の中を連れ帰ることを許されるが、それは監禁で弱った娘を殺してくれという意図でもあった。

まずは、名誉と恥辱に対する観念がずいぶん重たいことに驚かされる。しかしそれよりも、悲惨な状況を作り出している軍の圧制、社会の不公正に対する怒りの念が、フィルム全体から体液のように滲み出していることが特筆すべき点だろう。怯えて暮らす男の家族は、「それでもクルドよりはましだ」と呟くのだった。

ギュネイは、『路』の撮影直後、仮釈放のままフランスに政治亡命、3年後に47歳で亡くなっている。


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