アメリカからの帰国便で、ジム・ジャームッシュ『The Dead Don't Die』(2019年)(英語字幕版)を観る。
ジャームッシュの新作はゾンビ映画である。ネタバレは避けるが、バレたところでこの面白さは減ることはない。パロディも散見されるが、お約束でみんな笑う類のものである。
なにしろ変人万歳だ。そして言葉が世界の隙間に奇妙に入り込むことの力を、ジャームッシュは信じているに違いない。『リミッツ・オブ・コントロール』において、変な者たちがミッションの遂行にあたって最後に付けるのは「by any chance?」だった(いちいち笑ってしまう)。『パターソン』だって言葉の力を全面的に信じた映画だ。
最初のゾンビの事件が起きる。最初に調べた警官は慄いて「Wild animal? Or several wild animals?」と訊くともなく呟く。次の警官も現場を視た後に「Wild animal? Or several wild animals?」、それに対して最初の警官「That's exatly what I said!」とツッコむ。そして三番目の警官も。笑ってしまって脇腹が痛い。
しかしこれは符丁的面白さだけではなく、世界のメタフィクション化とも関係していることがわかってくるのだった。
傑作。日本公開されたらまた観たい。(トム・ウェイツがまた良いのだ。)
●ジム・ジャームッシュ
ジム・ジャームッシュ『パターソン』(2016年)
ジム・ジャームッシュ『リミッツ・オブ・コントロール』(2009年)
ジム・ジャームッシュ『コーヒー&シガレッツ』(2003年)