Sightsong

自縄自縛日記

鵜塚健『イランの野望』

2016-06-09 06:47:39 | 中東・アフリカ

鵜塚健『イランの野望 浮上する「シーア派大国」』(集英社新書、2016年)を読む。記者のDさんにも推薦されていた本。

イランの核開発問題に関する合意により、経済制裁が部分的に解除された。本書は、もとよりイランをめぐる国際的な枠組みが不公平極まりないものであり、アメリカを中心とした国によるイランの扱いには批判されてしかるべきものがあったことを、明確に述べている。もちろんそこには歴史の積み重ねというものがあって、イラン・イスラム革命によって親米のパフラヴィー朝が倒れたこと、イラン・イラク戦争においてアメリカがイラクに肩入れし化学兵器の使用を許してしまったこと、イランのシリアへの支援、サウジアラビアとの確執など、最近のことだけをとってみても、非常に複雑であることがわかる。

著者は、イランの反米を卵の殻に例えている。しかし卵の中身には欧米への憧れや親しみという黄身が入っているのであって、黄身の肥大によって殻にひびが入ることさえもあるのだという。バフマン・ゴバディ『ペルシャ猫を誰も知らない』(2009年)はまさにその動きをとらえたドキュメンタリーだった。(テヘラン市内にはマクドナルドそっくりの「マシュドナルド」や、本物そっくりのKFCがあるということは知らなかった・・・。)

テヘランを歩いてみると実感できることだが、驚くほど豊かで、長い経済制裁を受けていた国という印象は希薄である。それは基本的には自国で何でも作ることができるためでもあるし、制裁の影響がイラン南部の貧困なほうにこそ出ているためでもある。また一方では、性能の良い技術を外部から導入できず、老朽化したもの(たとえば飛行機)を更新できないことによる悪影響もある。そして、核問題合意の直後から、欧州勢のイラン詣でがはじまった。

歴史を踏まえて現在のイランを俯瞰するための良書。

●参照
桜井啓子編『イスラーム圏で働く』、岩崎葉子『「個人主義」大国イラン』
2016年2月、テヘラン
2015年12月、テヘラン
イランの空
スーパーマーケットのダレイオス1世
テヘランの軍事博物館と緑の宮殿
旨いテヘラン
旨いテヘラン その2


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