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自縄自縛日記

木庭顕『ポスト戦後日本の知的状況』

2024-04-01 07:21:31 | 思想・文学

木庭顕『ポスト戦後日本の知的状況』(講談社選書メチエ、2024年)。

時空を超え姿を変えて登場するのは、夏目漱石『三四郎』の与次郎。一見知的で活動的な批判精神を持つ存在だが、実のところこちらを借りてあちらをけなす野次馬的態度にすぎない。たとえばアジア侵略時代の大陸浪人、そのロマン主義的・周辺的な分子に過ぎない与次郎は中枢に向かってテロルを行使する。そしてユスリタカリだったはずの与次郎が権力自体と化してしまう。

戦後期も然り。本丸の丸山眞男も藤田省三も竹内好もクリティックたりえなかった。かれらの周りには与次郎ばかり。「畢竟彼らは、裾野に広がる広大なニッチの闇(を問題とすべきであったにもかかわらず、その意識さえなく、そ)の中からそのまま抜き出してきたにすぎなかった。だからしばしば、文字通りその闇の中に棲息する分子と大いに意気投合した。」

それどころか知的世界では「クリティック解消の快感」すらあったのだ、という。つまりそれはポストナントカだったり借り物のあたらしい思想だったり。中沢新一なんて一刀両断。「与次郎に相応しく、いい加減なことを意識的に言って読者をたぶらかそうとする意図(特に中沢にこの暗い悪意)が丸見え」と。

いや笑ってしまうくらい手厳しい。じっさい、これはいまの原論空間そのものだ。


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