入谷のなってるハウス(2020/11/19)。NYから来た藤山裕子さんは2週間の隔離期間を経てツアー初日である。
Yuko Fujiyama 藤山裕子 (p)
Yuki Saga さがゆき (voice, g)
Yumiko Tanaka 田中悠美子 (三味線, 大正琴)
Kuniyoshi Yamada 山田邦喜 (ds)
1、藤山・田中デュオ。なんの覚悟か棒で横に置いた三味線をひしと打つ田中さん、最初のふるまいだけで田中さんの凄みがわかる。三味線のしなり、ノイズと、ピアノの叩きの違いそのものが音楽として昇華する。このふたりは90年代にNYでブッチ・モリスのコンダクションに参加して以来の共演だそうである(吉沢元治さん、足立智美さんもいたとのこと)。
2、藤山・さがデュオ。さがさんが横置きのギターの弦を弄び、擦れるようなスキャットをはじめると、藤山さんは内部奏法で呼応する。両者ともに音を強くしてゆき、さがさんは疾走する猫のよう、藤山さんもまた鍵盤で路上を素早く這う。藤山さんの響きのコントロールに驚いた。ヴォイスと弦とが大きなうねりを作る。
3、藤山・さが・田中トリオ。田中さんが太い弓で三味線を弾き、うめきとも何とも言えない音の連なりを創り出し、さがさんは弦をつまむように音を発し、藤山さんは音を落とすように選ぶ。ピアノの音の落としかたが物語だとすれば、田中さんとさがさんの怪猫ぶりは現象。やがて田中さんが三味線を手に持って弾き始めるのだが、つぼを見つけたようで笑いつつ円環運動を行う。全員での終わりの軋み。
4、田中・さがデュオ。田中さんが大正琴の上を指で歩きかきむしり、さがさんが弦と歌で遊ぶ。ふたりは同じ高校を出たそうで、最後は笑いながら「神様ごめんなさい」と。それにしても急に終わるところなんて達人。
5、藤山・さが・田中トリオで、藤山さんが作曲したばかりの<Beyond the Sound>(スコアを覗き見したら、ふたつの流れの要所が規定してあるものだった)。まずは藤山さんが木の棒でピアノの中を突く。それによるピアノ内部の反響に呼応して、さがさんが風にも我慢する猛獣にも感じられるヴォイス、そして田中さんは三味線で一音一音をびりびりと発してゆく。田中さんは撥でゆっくりと三味線を擦りつつ小さな音を出し続ける。このあたりの存在感はさすがとしか言いようがないものだ。藤山さんは音を待ち呑み込んで叩き、鍵盤を鳴らす。
6(セカンドセットに入った)、藤山・山田デュオ。山田さんが選んで斬るような打音にはドスが効いており、圧が驚くほど強い。これに対し藤山さんは数でクラスターを創り出し応じる。ときに山田さんの動きを読むかのような藤山さんの超能力が垣間見えた。
7、藤山・山田デュオ。山田さんは間を空けて突いた音を出し、その間に呼応する藤山さん。ブラシは単なる擦りではなくそれ自体でものを刺しそうな迫力に満ちている。藤山さんが一音で収束に向かわせると、山田さんは一音ではなくシンバルの組み合わせで締めた。
8、全員。さがさんが暴れ歪みを生じさせると、田中さんはふたつの楽器を使って余裕で遊ぶ。さがさんの叫びをみんなが笑いで受けとめ、ふとした瞬間にいきなり全員で演奏をストップした。これもまた遊びの熟練者たちならではである。
9、全員。田中さんの大正琴の歪みをさがさんが受けて縦に増幅させ、さらに藤山さんが横に拡大するプロセスがある。山田さんがここで敢えて刻んでいるのがまたおもしろい。田中さんが弓で大正琴を弾きはじめ、やがて全員がひとつの世界を成した。E-Bowが大正琴に置かれ、さがさんが撥音で応じ、藤山さんが流れるように音を紡いでゆく。
四者の余裕と覚悟と遊びがいろいろな形で提示され、とてもよいギグだった。
Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4
●藤山裕子
藤山裕子+レジー・ニコルソン+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2018年)
ピーター・エヴァンス@Jazz Art せんがわ2018(JazzTokyo)(2018年)
●さがゆき
さがゆき+高田ひろ子@本八幡cooljojo(2020年)
さがゆき+登敬三@日暮里Porto(2020年)
Fado-mo-two@in F(2020年)
さがゆき+高田ひろ子@中野Sweet Rain(2019年)
広瀬淳二+さがゆき@なってるハウス(2019年)
さがゆき+高田ひろ子@川崎ぴあにしも(2018年)
さがゆき+アニル・エラスラン『Shadows』(2018年)
ファドも計画@in F(2018年)
●田中悠美子
トム・ブランカート+ルイーズ・ジェンセン+今西紅雪+田中悠美子@本八幡cooljojo(JazzTokyo)(2019年)
齊藤僚太+ヨシュア・ヴァイツェル+田中悠美子@Ftarri(2018年)
角銅真実+横手ありさ、田中悠美子+清田裕美子、すずえり+大城真@Ftarri(2018年)
●山田邦喜
ラッパとタイコ@阿佐ヶ谷天(2020年)