Sightsong

自縄自縛日記

アピチャッポン・ウィーラセタクン『光りの墓』

2016-03-17 23:30:56 | 東南アジア

アピチャッポン・ウィーラセタクン『光りの墓』(2015年)の試写会。

タイ東北地方、「眠り病」の軍人ばかりが眠る病院。そこを訪れた初老女性のジェンは、眠り男たちの魂と交流する能力者の女性や、ふと目覚めた若い眠り男と付き合う。東屋で休んでいるジェンの前に現れたふたりの美女は、この世の者ではなく、病院の地下には別の世界があるのだと教える。

眠りをパスとして、平然と同居する彼岸、あるいは平行世界。おそるべき確信犯的な長回しによって、出入口は観る者にも快く提供されている。この世に執着しうるとしたら、その鍵は性欲か。しかしそれも平行世界でも人を縛り付けているものかもしれない。そして、最後に目を見開いてジェンが見つめるものは何か。

最初から最後まで、半覚醒の状態で朦朧としながら彼岸の出入口を彷徨することになってしまったのは、疲れていたからではない。おそるべし。アピチャッポンのような天才がいれば、映画を観ることも悪くないなと思ってしまう。

●参照
アピチャッポン・ウィーラセタクン『Fireworks (Archives)』(2014年)
アピチャッポン・ウィーラセタクン『ブンミおじさんの森』(2010年)
アピチャッポン・ウィーラセタクン『トロピカル・マラディ』(2004年)


ジョー・ヘルテンシュタイン『HNH』

2016-03-17 07:57:57 | アヴァンギャルド・ジャズ

ジョー・ヘルテンシュタイン『HNH』(clean feed、2013年)を聴く。

Joe Hertenstein (ds)
Pascal Niggenkemper (b)
Thomas Heberer (cor)

コルネット、ベース、ドラムスというなんら奇抜でもないフォーマットであり、聴いてみても、練習の延長線上にあるような「なで肩」セッションである。しかしそのことは、サウンドが過去のコードやノリやあり方から解脱しているように聴こえることと表裏一体。プレイ×3=トリオのサウンドというより、ひとりひとりが占める場所がためらいなく重なっている感覚か。そんなわけで、このサウンドは、インプロヴィゼーションと、インプロヴィゼーションをいつでも発芽させる土壌との両方なのであった。

ジョー・ヘルテンシュタインのガジェット感溢れるドラムス、パスカル・ニゲンケンペルの拡がりのあるベース、トーンの長さも濁り度も輝かせ方も爛漫なトマス・ヘベラーのコルネット、3人とも魅力的。

●参照
ハリス・アイゼンスタット『Canada Day IV』(2015年)(ニゲンケンペル参加)