Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

茶碗の景色から

2013-05-22 16:04:07 | その他
伊勢佐木町のミニ陶器市で買った半額で500円の小茶碗を気にいっている。サイズは直径が7センチ強、高さは5センチというお猪口とも湯飲みともとれる微妙な大きさだ。光線の加減で白と思っていたボディーは淡い青緑色がかった乳白色である。

土は高台の円周に垣間見える。明るい信楽系の土のように見える。ボディーを覆っている青緑釉には土に含まれている鉄分が黒子(ほくろ)みたいに点在している。特に見込み側の酸化鉄による黒子の連なりは、イタチや野鼠みたいな小動物が雪の野原に残している足跡みたいな楽しげな景色を作っている。量産窯の中で焼いている途中でこの碗にはどういうわけか、松灰が多めに降り注いだのだろう。

数個在庫していた同じ500円の同一碗をためつすがめつ比較したが、この碗だけがビードロ(ポルトガル語の青緑ガラスの意)被覆が甚だしい。写真を拡大すると気泡の様子までよく見えている。特に高台の裾際は青磁みたいに分厚く覆われている。形は同じものでも、熱や溶媒の成分の偶発性によって左右される陶芸品の妙が図らずも現れているようで、このようなゲテ買いはやっぱり楽しい。逆にこの碗の立場からすれば有象無象(うぞうむぞう)扱いされる大衆的領域の中で、これだけ無銘のポジティブを救抜してくれる変な人物に出会えたということはとても幸せなことになるのだろう。

これを買ったついでに古本屋にて入手した「セント・アイビス展」の昔のカタログを開く。バーナード・リーチの諸作の写真が勿論お目当てなのだが、イギリス南西部にある港町セント・アイビスに集散離合したモダンアートの画家たちによる「悲しみの港」風諸作に心を奪われる時間帯を迎えている。

ロジャー・ヒルトンの「踊る女」は1962年の作品らしい。口論なのか、痴話喧嘩なのか、滞仏中に喧嘩した妻が裸のままべランダに飛び出して奇語を発した事件をモチーフにした伸びやかな絵だ。これを知った屋外の火事場見物をしていた群集の視線が裸体の方へ瞬時に切り替わったという奇天烈!な解説挿話が入っている。

クリストファー・ウッドの「漁夫の別離」は底深い哀愁の漂う絵だ。その肖像はセント・アイビスの名を高めた画家ベン・ニコルスンと妻をモデルにしているとのこと。入手した茶碗に八女茶を注いで、これから夜半にかけて素朴海洋画家だったアルフレッド・ウオリスの帆船絵画の諸作品、火事の事故死にあったバーバラ・ヘップワースの抽象オブジェでも丹念に眺めてみようと思っている矢先である。