Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

好きな窓辺

2017-08-31 12:44:58 | ラジオ亭便り
真夏の期間を平日休業 にしてアルバイトで汗を流したり、夏の散歩を楽しむ暮らしをしていたらいつの間に秋の気配が漂って来た。自営業時代に大変世話になったSさんのご夫婦と初台のオペラシティがある高層ビル内で半年ぶりの雑談をしようということになり出かける。夕方までの時間が余っているので先日の阿佐ヶ谷北口界隈で気になっていたカフェへ寄って みる。

初台と阿佐ヶ谷は甲州街道、環七通り、青梅街道等で繋がっているバス路線が走っていてこれを利用すると便利だ。先週は吉祥寺メグの寺島靖国さんと吉祥寺駅付近のカフェ、蕎麦店などで珍しく近況情報の交換をする。この人とも40年に亘る細い付き合いが継続している。79才になるスーパー老人は如何に意気がらない脱力的人生への対処法をとるか、専門のジャズ鑑賞の事例に喩えながら非老人的感性に磨きをかけた発言をしばしば語っているところが面白い。いつものように形式は内容を決定するという見地から、着衣の麻製のオレンジカラーの半袖シャツを揶揄を交えて褒める。すると答えがすかさず返ってくる。「あんたの黄色アロハシャツには敵わないよ」と。昔は欧州製の高級腕時計が目立っていたが今は孫娘にでもプレゼントされたようなプラスチックな青とピンクの配色も鮮やかな安物感が、上手い外しになっていてこれも老いてきたことによる実力の証しだと思う。

話は 戻ってこの前に入りそびれた阿佐ヶ谷北口の商店街にある喫茶「雨水」に感心する。古びた雑居ビルの2階に集うお客さんのアナログ的質感がいい。導入路も決して恵まれているわけじゃない、看板も稚拙感漂う日曜工作風なのに客足は絶えない。ラジオ亭に点在するお客さんと同じ質感の方もいるがこちらはちゃんとした層を作っていて揺るぎない。ラジオ亭はその感覚にピンとくるお客さんが圧倒的に偶発的域を出ていない。まだ点でしかない。居心地の良い店を眺めながら、ジャズの再生音、装飾展示物、格段というギャップはないのに全体的マーケティングが遥かに劣っていることを思う。9月になったら進める店舗内装のことを考えながら「雨水」の良き窓辺を眺める晩夏のコーヒータイムになった。

営業ご案内 9月3日(日) 休業日 9月1日(土) 9月9日(土)9月10日(日) 12時〜19時 営業 平日午後 不定期営業あり

LPの到来物

2017-08-26 19:24:10 | ラジオ亭便り
滅多に言葉を交わしたことのないラジオ亭の近くに住む方が訪ねてきた。老舗の料理店のオーナーでジャズファンらしい。数十年前に買ったLPレコードを店の改装に際して処分するとのことだ。ジャズボーカルなら欲しいと答えておいたら数日後に当該のLPを届けてくれた。格安である。21枚のLPレコードは玉石混交の趣だが、予想に反してインポート盤が多かった。

エラ・フィッツジェラルドのMGM傘下に属した頃のヴァーブ盤が沢山あった。エラがスターになってポール・ウエストン楽団、ネルソン・リドル楽団、マーティ・ペイチ楽団等をバックにしたLPは持っていなかったので嬉しい気分になった。アービング・バーリン、ジェローム・カーンといった優れた作曲家のスタンダード曲が満載だ。入手したLPレコードの私的ジャケ美賞賛4枚を選んでみた。アリス・バブスはスウェーデンのシンガーでエリントンと共演したこのLPは1963年にパリで収録したもので、テルスターというレーベルから発売されたセカンドバージョンのようである。巨匠エリントンへの畏敬の念は、彼女の品格溢れる手の組み方にも十分現れていてスタジオにおけるモノクロのボカシ写真が美しい。

ビリー・ホリディのLPは1964年に発売されたリック盤である。1950年にボストンのストーリーヴィルで録った彼女の歴史的名唄集をライナー担当のナット・ヘントフが讃えている。このLPのイラストはデフォルメしたビリーの肖像画で耳の背後に見える髪飾りはビリーを象徴するクチナシの花というのが目を凝らしてやっと分かった。ずいぶん、表現主義的な技法だなと思って作者名を見るとバート・ゴールドブラッドのイラストである。アメリカのモダンジャズジャケットの意匠が実務風に堕す以前のベツレヘムレコードの名写真でおなじみのアーティストが作者だったとは。これも良い買い物とニンマリする。

9月の半ばにはアメリカ黄金期のゼニス製ラジオのフィールドスピーカーとアンプ部分の修繕が終わる。これに対応するアナログプレーヤー、プリアンプを組み合わせてモノラルLP が真価を発揮することを想像しながら入手LPや既存品の選別クリーニングをする晩夏の宵である。
営業案内 8月27日(日) 9月2日(土) 13時〜19時 通常営業

夏の店近況日記

2017-08-13 12:14:46 | ラジオ亭便り
旧盆の週間に入ったようで街の空気が少し閑寂な方向に変化している。街路のクルマ騒音の隙間から蝉時雨も聞こえてくる。山手公園沿いの緑地帯もあるせいか今年はミンミン蝉の鳴き声がよく聞こえてくる。土曜日のお客さんはラジオ亭の知己が5人、新規の女性客が一人と相変わらず振るわない。しかし平日の店舗は閉めて気晴しアルバイトで適度なテンションを高めて暮らす夏だ。体調は去年の夏よりもいい。


夏野菜を取り入れた食事類を増やして、トマトやアボガドを散りばめたサラダ、漬かり始めたラッキョウ等もコンスタントに食べている。昨日、初めて湘南・葉山の方から寄って頂いた30代の女性客にもアイスコーヒーの添え物にラッキョウをサービスした。その女性が率直にラッキョウのお代わりを請求してくれて嬉しい気分になる。

初夏に入ってきた1939年製のアメリカゼニス製の25センチフィールド型スピーカーユニットとアンプ部分が重厚な木製キャビネットとようやく分離できた。このアンプ部回路は本牧の方に住むラジオ達人がやって来て回路のチェックや補修の為に持って行ってくれた。

9月頃にはアナログプレーヤーを音源にしたモノラルの王道が楽しめるぞ!と居合わせた根岸に住むモノラルのディテール美に熟知したIさんが激励する。Iさんはフィールド型スピーカーのコーン紙を軽く爪で弾く、そしてユニットが去って空き箱となっているキャビネットをコンコンと叩いている。その挙措の次に発せられた言葉は隠然たる達人の名セリフである。「もう音楽が鳴ってるよ」低音がどうした、高音がどうした的なスペックの奴隷化したオーディオマニアからはこうした全体的直感に溢れた言葉を聞いたことがなく、数少ないラジオ亭の知己の質のレベルを再認識することになる。

閉店後は気晴しにと招かれたIさんの絶好調モノラルオーディオの見聞と奥方手製の具沢山の美味豚汁、鮪ブツ、マカロニサラダといった幸多き夕飯のご馳走になる。持参したLP 初期盤はドリス・デイ、アンドレ・プレビンのコロンビア盤、アン・フイリップのルーレット盤、ルーシー・アン・ポークのモード盤などでIさんの到達システムはこうしたソースとの絶妙な親和性において群を抜いている。

スコット社真空管モノラルアンプ、ジェンセン社12インチスピーカー、大型レコカット社プレーヤー、フェアチャイルド社ロングアーム、GE社バリレラカートリッジ、入口から出口までオールアメリカン機器で一貫している。ルーシー・アン・ポークが儚げに歌う愛聴の「メンフィス・イン・ジューン」「タイム・アフター・タイム」等をしみじみと聴きながら、それらの機器がもたらす合力の滋味を否応なく味わうことになる真夏の宵になった。

営業ご案内 8月18(金)19(土) 20日(日) 13時半〜19時 営業してます。

ジャズ的情景

2017-08-01 12:56:24 | ラジオ亭便り
スウェーデンのドラゴンというレコード会社から発売されているCDを数枚 持っていて時々聞いている。1953年にEPやLP収録された名バリトンサックス奏者ラース・ガリンの黄金期にふさわしい演奏の数々を再編集したものだ。タイトルは「LARS GULLN VOL1 2 Modern Sounds」と銘打ってあり2巻に分かれている。丁寧且つ誠実な造りのパンフをひっくり返しながら好きなジャズ曲をチョイスしながら聞くのが無人タイムの至福になっている。相変わらず来店客は少なく夏枯れは続きそうだ。主人だけの空間に色濃く流れる「ある夏の出来事」などという曲が2巻目に収録された好きな曲になっている。

これはトロンボーン奏者ベニー・グリーンの演奏が好きだが、繊細とラフを具有するラース・ガリンのアップテンポなバリトンのリリカルプレイも負けてないななどと内的につぶやいていると、近所に住むアナログ達人と散歩達人を兼備したIさんがやってきた。時間は夏の陽も傾きかけた午後4時に近い。Iさんはオーディオ機器、アンティック蒐集、アナログ盤蒐集に関しては荻窪に住むドクター櫻井さんと並ぶ我がラジオ亭の畏友的存在だ。そのIさんがビールを注文する。半端な気だるい時間に来てくれたことに感謝。少しづつ浸かってきたラッキョウはIさんの口に合っているようでこれをツマミとして出す。Iさん向きの曲が何かないかと瞬間に記憶センサーを働かせてみる。

そういえばこのラース・ガリン盤には躍進途上にあるオランダ の歌姫と称されたリタ・ライスが共演した数曲が入っている。丁寧なパンフの片隅写真にはストックホルムのスタジオで休憩時間に寛ぐラース・ガリン、ドラムのブラッシュワークに独自な味わいがある、ウエス・リッケン、若き日のリタ・ライスが笑顔で駄弁っているスナップショットが載っている。けっして美人範疇に属するシンガーではないけど、コクを感じさせる笑顔が素晴らしく若い。リタ・ライスには晩期にもジョニー・グリフィンのしみじみとしたテナーをたっぷりとフィーチャーした「ザッツ・オールド・フィーリン」みたいな情感溢れるスタンダード曲集の優れものがある。これは昔、Iさんにお聞かせしてお気に入りになっているはずである。

彼女の歌う「オーバー・ザ・レインボー」「ヒーズ・ファニー・ザッツ・ウエイ」このすがれた店舗の午後に流れる自信の選曲だ。ラース・ガリンは前者でアルトサックス、後者でバリトンを使い分けしている。ギュンナー・スベンソンのピアノは同じスウェーデンのベンクト・ハルベルグにも勝るリリカルなメロディーで花を添えている。「こましゃくれ」という比喩を思い起こす少しドライな声質と甘い情感がブレンドしてるところは彼女の若い時期からの持ち味で、案の定、ビールを飲みながら聞いているIさんは、店空間、時間帯、そこに流れる独自な全体的情感の三位一体を感じたようで、経験豊かなカフェ文化論見地からお褒めの言葉を頂くことになった。

8月第一週からの予定 平日原則閉店。不定期オープン時間もあります。 土日祝のみ開店。店舗前に予告掲示します。