Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

拾いものがもたらす縁

2014-07-31 21:10:35 | その他

二日間ほど本来の夏の朝らしい爽快を味わえたが、今日はまた蒸し暑い朝を迎えた。弱って死んでしまったメダカが一匹浮いているのを埋葬してから週前半勤務の最終日へと駅へ向かう。座間駅の近くに原付2種を駐車したあと雌の公孫樹の凄い大木を仰ぎみて駅へ向かう。すでに青いギンナンの実をたわわにつけている。そこの道端に封筒が落ちていた。お金ということはありえないが念の為に中身を確認する。中身はコンサートチケットの10枚綴りだ。根本昌明さんという指揮者と東京合唱協会の秋にあるコンサートの前売り券だ。発行元が座間の近所らしい。そこで電車へ乗りこむ前に発行元へ拾ったという電話をいれた。奥さんらしい人が応対して夜になったら自分の所へ受け取りにやってくるということで話がすんだ。夜になってその奥さんと連れだってやってきたのはそのチケットに表記されている根本昌明さんだった。

お礼に立派な「葛切りセット」と根本さんが東京オペラシティホールで東京フィルハーモニーと二期会合唱団を指揮したベートーベンのシンフォニー第9合唱付きの実況CDまで持参してくれて恐縮してしまう。これは根本さんが主宰する「レーベンバッハ」が2010年に発売したものである。これも近所に住む縁ということで、今度根本さんが指揮をとっているコンサートかリコーダ演奏会にでもでかけてみようと思っている。チケットを落とした時はどこかへアルバイトに出かける時だったということを全く虚飾なく語っている根本さんはやっぱりハイデッガーが言う「本来的自己」を持っている人物だということがわかった。縁の不思議を物語る夏の一日である。


夏空とまくわ瓜

2014-07-28 20:58:05 | 

老健施設に入っている92歳の母親の様子を見に伊勢原まで原付2種バイクを走らせる。海老名から相模川を渡るのだが、水の色を近くで見れる橋は「あゆみ橋」という橋で、ここを渡るのはお隣にある新相模大橋等を渡るときのような禍々しさが襲ってこないから気持が楽である。鮎を立ちこんで釣る人の風景を眺めながら国道129号へと向かう。厚木の酒井付近から伊勢原の内陸部へ入ると母親の施設はそう遠くはない。伊勢原・下谷付近の畑作地帯では玉蜀黍(とうもろこし)が照り返す太陽を浴びて猛々しく背丈を伸ばしている。

母親は年を重ねるごとに小さくなっている。二人部屋の小さな部屋でベッドに横たわって38キロ程度の痩せた体を折り曲げて昼寝していた。歩行器に腕を添えて自力歩行してきた母親と面談室のようなところで一時間ほど雑談する。記憶力は強靭で戦時中の疎開地の食べ物の細部まで諳んじるのに、一部に記憶失認がでてきたようだ。施設へ入ってちょうど4年になるが、自分はここにもう10年も入っていると言い張ってやまない。それでも伊勢原に住む孫夫婦のクルマに乗せてもらって88歳の妹が住む浜名湖の奥地へ連れて行ってもらうという夢は膨らんでいるようで、自分もそうしてもらったらいいねと相槌をうっている。最近、筆書きしたという鰻という字を書いた半紙も見せて嬉しそうである。亡妻がよく毛筆時にブンチンを丁寧にセットしていたのを見聞していたようで、そんな情景まで語っていて仲が悪かったわりにはこちらの知らないことまで知っているから不思議なものだ。

いつものように肩をポンと叩いて施設を後にする。遥かに高い夏空を見ていたら急にあの甘くない「まくわ瓜」が食べたくなった。そこで農産物直売所の「わくわく広場」へ寄り道する。この瓜はもう時代錯誤で農家が余興で栽培しているものが、秦野、伊勢原付近で少々出回っているくらいだ。ちっとも甘くはないが夏の瓜臭い香りが好きだ。1個200円でこれを買い不揃いの大玉、小玉が混じったトマト、農家自作の糠漬胡瓜などを買って座間へ戻る。一晩冷蔵庫でよく冷やしたこの黄色い瓜を縦割りにして翌朝頬張ってみた。今年も夏を生きているという仄かな甘みが口中に広がっていく。


信州アイスコーヒーと桑葉茶

2014-07-26 05:46:38 | 

先日、知人の鍼灸師と雑談をする為に都心へでた。まだ梅雨は明けていなかったが今年も猛暑の予感がする蒸した一日でいやおうなく喉が渇いてくる。急な予約電話が入ってその鍼灸師は青山へ向かうことになったので、こちらは歩けば15分程度の日比谷線・広尾駅へと向かう。ちょうど昼ランチの「ホッケ定食」をその知人からご馳走になったばかりだ。どこかで一服してから電車に乗ることにした。辺りのカフェを物色するがどこもせせこましいところばかりだ。

少し有栖川公園の方へ向かった角にオープンカフェがある。イタリアンコーヒーの都心型チェーン店で近くに住む元カノともたまに入った店である。元カノが飯変わりに食べていた「パニーニ」をふと思い出す。お店の景観はそのころと違わない。新宿の東口にも同じ店があるが、広尾の方が周りの大きな樹木との調和が潤いをもたらしている。冷えたアイスコーヒーが欲しくなって注文する。味は濃いだけのスタバ的平凡品だが、ようやく涼むことができた。ここでは周りでおしゃべりしているタバコ女達の紫煙を浴びながら携えていた岩井志麻子のねっとりとした「魔羅節」という良質な岡山ポルノ民潭を読む。

この日は帰宅しても蒸し暑さは衰えない。そこでイタリアンチェーンのアイスコーヒーを凌駕するアイスコーヒーをたてることにする。あちらには苦みがあるが香りが不在だ。ちょうどジャズ友の桜井さんからいただいた「信州珈琲」があった。500グラムという贅沢品である。これはアイス専門用に粉を引いているから最適だ。濃い目に点てて香りを満喫する。アイスコーヒーもストックは駄目でその都度点てることが風味を失わないコツだ。最近は仕事先ではセブンイレブンの100円アイスコーヒーを愛飲している。これは並みいるチェーン店の味を凌いでいると思うのは自分の錯覚だろうか?この真夏はセブンイレブンのアイスコーヒー、自宅仕立てのアイスコーヒー、葉山の丘に生えている桑の葉を乾燥させてカリカリにして杜仲茶の紙パックに混ぜる。これを20分くらい湯煎して冷やしたもの。この三つの定番アイス飲料で腹を冷やさない程度に夏を越えようと思っている。


水曜日の読書

2014-07-23 20:43:45 | 

ようやく梅雨が明けた。毎週水曜日は厚木の奥の方にある愛川町まで仕事に出かけている。ここの仕事は一人きりの部屋で過ごすことができるから気が楽だ。やることをきちんと消化すればあとは惰眠をむさぼるわけにはいかないが読書くらいはできる。難点は通勤アクセスが悪いことだ。クルマの場合は国道246号を厚木の金田で右折して129号線を辿ることになる。このコースはまるで景色がよくない。灰色の一日が暗示されるような殺風景な街道筋である。これをやめて相模川沿いの東岸を行く県道コースも選択してみたがこちらは川を渡る渋滞が一苦労ということがわかった。そこでたまには原付2種バイクの出番である。昨日もおにぎり2個の弁当に横浜周辺の「ブックオフ」で買った108円の文庫本を数冊袋に投げ入れてバイクのホルダーにひっかけて通勤する。座架依橋の手前にある曲がりくねった農道を辿って相模川の昭和橋を目指す10キロコースだ。道端に野生する朱色の「カンゾウ」はとうに盛りを過ぎている。これからの「大暑」時期には青田の背後を彩る「向日葵」「大松宵草」「カンナ」などが川風になびく風情が座間や相模原の田舎道の魅力を高めてくれる。

持参した文庫はヘディン「さまよえる湖」ガルシン「赤い花」池波正太郎「包丁ごよみ」木田元「反哲学入門」どれもこれもオール108円の名著ばかりだ。中央アジアの移動するという伝説の湖ロブノール探検記がヘディンの本だが、こちらも108円でヘディン一行の筏や馬の旅のスリリングに同行させてもらうことができる。昔、「生活の探求」をものした島木健作という小説家は短編小説「黒猫」という傑作の中で旅行記、探検記の面白さを称揚している。ちょうど島木健作が結核を患っていた時にその鬱屈を晴らしてくれたものが古今の旅行記だったらしい。自分も金子光晴の「マレー蘭印紀行」田村隆一「インド酔夢行」等の紀行本をたまに読んでは詰まらない生活からの一時逃避を図っている。ヘディンの探検記も同様でこうした類ならシベリアだろうが、南米だろうがいつでも在宅漂流をきめこんで夢想は尽きることがない。

「舟旅」の箇所でいつも感動するのが1899年の第一次探検に従僕として水先案内をして活躍した東トルコの山岳砂漠人「エルデク」との32年ぶりという再会シーンがある。老人になったエルデクについての印象を記すヘディンの描写に泣かされるのだ。

ガルシンの「赤い花」は奇しくも「啄木歌集」を読んで触発されている。啄木の「忘れえぬ人々」の中にある「みぞれ降る 石狩の野の汽車に読みし ツルゲネフの物語かな」という歌だ。若い頃読んだツルゲネフ、チェーホフ、ガルシン、若い頃浸っていたチャイコフスキーの音楽、どこかで置き忘れをしてきた抒情の同質を感じてこの期に及んで読んだり、聞いたりし始めている始末である。ガルシンの短編では「信号」がよい。やっと職にありついた線路守の男の物語だが19世紀末期のロシア的暗澹の描写はやはりトルストイ、チェーホフの空気と同じもので、1924年以降のプロバガンダ芸術には失われてしまった貴重な感性ということに気がついたのが今回の我が成長である。

「包丁ごよみ」は池波の「剣客商売」中の料理シーンの抜粋集だ。料理の実例は「山の上ホテル」の名料理人、近藤文夫という達人が素敵なレシピを披歴している。夏の候に登場する鮎、鱸、鰻、茄子、どれも美味そうなものばかりだ。隠居剣客秋山小兵衛の20も年が離れた若嫁「おはる」が「はい」と答えるのを江戸弁で「あい、あい」と応じて気のよい台所仕事にいそしむ描写はいつ読んでみても素晴らしい。水曜日の文庫本デーはこの八月も続行する気配である。


フリマ散歩や海亀食堂の夏空

2014-07-13 10:41:55 | その他

台風一過の散歩をしようと老年三人組が合流することになった。JR小机駅の近くに聳えるサッカーでお馴染の日産スタジアムがちょうどフリマの開催日になっている。濱野氏はすぐ近くの鶴見川の対岸から徒歩でやってくる。佐々木氏は横浜駅から横浜線、私も座間から町田乗り換えの横浜線というアクセスのお手軽散歩だ。スタジアムを見上げると夏空が一面に広がっている。こういう時候に自然は上手い配色を施すもので槿(むくげ)や梔子(くちなし)等の華美な花弁が背景の夏空にコントラストがきまるように仕組んであるのだと思う。

フリマ会場はスタジアムの庇によって日陰のできる場所以外はとてつもない炎熱エリアになっている。太陽が射してくる場所は34℃くらいありそうで、これでもかこれでもかというくらいの汗が噴き出してくる。これに負けじと一見元気な老年三人組もおのおのの関心品を物色して歩く。テナントはバッタ屋系統の新品特価品が主流で魅力というものがまるで感じられない。混じっている個人の出品に逗子の神社にて掘り出したようなちいさな良品を見つけだそうとそれなりに注意力を研ぎ澄まして歩く。

会社を定年してからカジュアルファッションや携行品づいている佐々木さんは、鋲打ちした濃いテイストのキャンバス地と本革のミックスしたバッグだとか、20代の斜め被りしたキャップを被ったヒップホップミュージック好きなあんちゃん達にも愛好されているラフな「アバクロービー」のフード付きパーカー等やTシャツ等も買って喜々としている。

自分も珍しく都会派にいちゃんのコーナーで見つけた夏ものの「ウールリッチ」製縞柄の木綿シャツを500円で買う。肌触りがザラザラした木綿地がとても気持よい。色調はジョルジュ・ブラックめいたコンポジションが魅力だ。

濱野氏は木綿地のベージュ色したハンチング等を買って品よく歩いている。自分ももう各種な器などは売るほどあるから不要なのにちょっとチャームポイントのあるものを見るとすぐ買ってしまう悪癖を自重しながら物色していたら、沖縄三彩の可愛い蓋付き小壺を見つける。消費社会が過剰になった時代にけっこう贅沢を味わった匂いがする40代の素人女性出品者のものだ。値段がついてないから尋ねると拍子抜けの100円という答えだ。500円なら買うかという判断だっただけに先に買ったシャツの間に裸のままつっこんでもらう。高台の胎土は壺屋付近の重油で焼いたようなテリがある。しかし三彩の点描とその隙間はなんとも愛らしい味わいがある。これは今年漬け込んだ葉山の丘で収穫した梅干し壺にすることにしよう。

炎熱を逃れて遅い昼飯をとることで新横浜駅方向へとおしゃべりでまぎらわせながら歩く。新横浜からセンター南は近いということで横浜・麦田「奇珍」伝承中華「海亀食堂」を訪れる。昼の混雑がひいた時間帯で、それぞれ中華麺だけの客にもかかわらず店主は歓迎の意を揚げワンタンの甘酢たれソースで先に供してくれる。自分は港湾労働者の食事として発生の源がある昔から好きな野菜餡かけのたっぷり乗っている「サンマー麺」、濱野氏は「チャーシュー麺」佐々木氏は「ワンタン麺」をそれぞれ注文、クーラーの冷気も寄せ付けない汗が噴き出す昼飯を快適に堪能する。

 

それにしても「海亀食堂」の麺、各種具、スープの総合力の冴えわたっていることには感心する。いつもながらの出口まで送ってくる店主との立ち話がいい。共通の知人である横浜・元町付近で長く観念的バイクショップをやっていた「ケンタウロス」の飯田繁男氏などのことも話題に上る。「ケンタウロス」は来年50周年の節目を迎えるらしい。こちらはマルクス、あちらはプラトンだった等という半世紀前の挿話を「ケンタウロス」の旗持ちをしていたという「海亀」の主人に話をしたら苦笑していた。食事後はセンター南の有隣堂書店の古書祭りを冷やかしてから市営メトロの乗客となって老年三人組の歩数計は、それぞれ一万歩をカウントすることになった。