Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

アメリカタンノイに刺激

2014-02-24 21:29:01 | JAZZ

数日前、新百合ヶ丘にある若いOさんが経営するビンテージショップでアメリカタンノイのオートグラフを聴かせていただいた。クアドエイトのプロコンソール、フェアチャイルドのモノパワーアンプ×2、スチューダーのCDプレーヤーA730という、なかなか個性的な機器による組合せだ。アメリカタンノイのオートグラフは初めてお目にかかった。四谷時代にはその下級クラスに該当するアルテックバレンシアに似ている木彫りキャビネットのゴールド15インチが納まったアメリカタンノイを一時預かりで鳴らしていたことがあった。その鮮烈な音力には魅せられた記憶があって今回も期待が高まる。Oさんは聴くことにおいても売ることにおいても大型への情熱を堅持されている方だ。二年ほど前にその同じ場所でシルバーの入ったアメリカ物を聴かせていただいたことがある。その時は臨時セットの急場凌ぎのせいで音と音楽が仲の悪い夫婦みたいにお互いがそっぽを向いていたようで、残念ながら音を忘れた忘我的境地に招かれる状況にはならなかった。

 

今回のソースはふだん聴くこともないバーンスタインのマーラー、交響曲5番とジャズCDはカプリ盤のスパイク・ロビンソンが「貴方のおそばに」みたいな秀曲をウエルター級のテナーでブロウする、同行したSさんのお気に入り持参品である。どちらのジャンルも良かったというと気遣いな日和見主義になってしまう。私見ではやはりクラシックのマーラー第五のアダージョ楽章における弱音部の繊細美、強奏部の壮大な憂愁美の表現にアメリカタンノイらしい底力を感じた。たまに聴く機会があるアメリカEV社の大型パトリシアン等とも一味違うフルレンジ風まとまりの良さを大型のバックロード箱が更に補強している印象がした。交響曲の安定クルージングをどっしりと支えるその雄姿にしばし感激するよい時間が流れた。

こうしたトップエンドなオーディオに比べればはるかにプアーな我がシステムにも活をいれてやろうと、本日は新旧取り混ぜたCDを流してバイタボックスの12インチスピーカーのエイジングを進めてみる。

ハリー・アレンとの共演盤でお気にいりピアニストになったロッサノ・スポルチェロがエド・メッツ、ニッキ・パロットと昨年10月に録音したほやほやの新譜。少し古くなったが、ジャズ的多声の引き締まった奔逸を縦横に快楽するジェームス・カーター一派。フリーからノーマルジャズへ転向したせいでかえってピアニズムの見識が深まったポール・ブレイ。毎日、日課のように聴く清水靖晃の無伴奏チェロ組曲、4,5,6サクソフォネット盤。等々を次々と大き目ボリウムで再生する。

いずれも1990年代から2000年代に入っての録音だが、我がバイタとの相性の良さを再認識したのがデンマークスタント盤のヘンリック・ギュンデの最新ピアノトリオ録音を再生してバイタの能力に感激してからの現代ソース嗜好になっている。自己満足にはちがいないが、どのソースをとっても最近気にしている心がけ上の音と音楽の乖離には無縁な様子にほんのりと安堵する。バイタスピーカー12インチ襲来1周年を改めて祝したい春まじかな如月の宵である。


ウオーキングのついでに

2014-02-22 11:36:57 | その他

定期勤務を辞めて水曜のアルバイト以外の日はフリーになった。閑居するわけだから時間が有り余ると思ったらそうでもない。未曾有な積雪に見舞われた甲州や佐久・軽井沢地方に住む敬愛しているブロガーの日記から滲みでる苦渋の呟きに同情しながらも、自分もバイクを通す為の除雪、駐車場に積み上がった屑雪の山を除けたり、いつもよりも汗をかく事が多い二月である。

今年に入って思いたったことは、歩くことの自覚化だ。一日5キロ程度歩けば体内に沈殿する不要脂肪は燃えてくれる。定期勤務のしばりから開放されて弛緩した時間を過ごすうちにいつのまにか体重が増えている。これを克服しようと一念発起することにした。いつも愛好している散歩に少し色をつけて引き締めればいいだけの話だ。近距離ではバスに依存しない。時間の余裕があれば電車も一駅程度は歩くに限る。

二月に入って最初のトライアルがあった。葉山に住む知人から旭屋肉店の葉山コロッケをあげるから逗子駅まで届けると電話があった。その申し出を断って旭屋肉店のある元町の海沿いまでJR逗子駅から歩くことにした。県道を逗子の新宿海岸へ抜けてマリーナなどの景色を横目で眺めながら、30分をリズミカルに歩く。ここで揚がったばかりのコロッケを友人が用意してきてある千切りキャベツ、キュウリなども挟み旭屋の専用パンに挟んでコロッケサンドができあがった。近所のテラスに座ってこのサンドと珈琲を楽しむことになった。速足の消費エネルギーはこの食事によってすぐカロリーチャージされたことになるけど、人生は小さな美味の満足によって成り立っているものと揚げたばかりのジャガイモと挽肉のハーモニーを味わう。これを機にさまざまな散歩バリエーションが潜んでいることに気づくことになる。

国道246号の西原という無粋な場所に隠棲する住家がある。これを南に歩いても相鉄電車が走るさがみ野駅までは2キロ足らずである。以前はバイクで一走りという簡易な方法を辿っていたが、急がない場合はこれもウオーキングコースにしてしまう。さがみ野の駅付近には小休止しやすいスペースもある。数日前は駅前までウオーキングしてブックオフで汗をぬぐうと同時に持ち前の目利きも発揮する。京都の何必館(かひつかん)という河原町三条にあるモダンアートのギャラリーを運営する梶川友久が監修したフランスの写真大家ロベール・ドアノーのモノクロ写真集をゲットする。500円也。2001年に開かれた展示会用のカタログらしい。

 

これで得をした気分になり今度は、駅前の北側にある小さく優れた「OJI-PAN」に寄ってみる。手作りパン屋さんらしい個性が主張されているオレンジやチョコをあしらった菓子系のパンにいつも唸ってしまうお店だ。そこで昼用の調理パンを購入する。小さめなピッザ生地パンにズッキーニやパプリカがチーズ等と溶け込んで楽しそうにひしめいているこの店らしい美意識が反映したオブジェパンである。

ドアノーのビストロで腕組みしている物憂げな女の肖像でも眺めながら、ネスレの偽ココアを喫しつつパンのカラフルを頬張るのは愉快そのものだ。因みにパリの広場でキスをしているもう1点の有名写真のオリジナルプリントは2005年の4月にパリで行われた競売では15万5千ユーロ(約2100万円)という高値で落札されたという曰くのある写真でもある。

昨日は雪の痕跡も薄らいできた巡礼大橋の袂で白梅をもいできた。ウオーキングの往路ではみ出した野生梅を発見して心にインプットする。復路で100均ショップへ寄る。ここで園芸バサミを臨時購入する。枝には寒冷に戸惑っている様子の蕾がびっしりとついている。ほんとうにこの春は遅い。これを帰ってきて益子のモクレンをあしらった偏古壺へと活けてみる。窓辺には地味な春が漂い始めてその消えそうな香りをしばし慈しむ夕刻となる。


バレンタイン大雪の中の夢想

2014-02-15 16:02:30 | その他

毎週、水曜日の定期アルバイト以外は部屋にこもって春先にオープン予定の世田谷・上町駅前ブックカフェ「アトリエ・モノラール」の空間意匠を思案している。

モノラールを自称するわけだから、真剣にモノラルと取り組む必要に迫られている。BGMの音楽を流す再生装置はステレオは付録みたいな処遇になる。あくまでもモノラルが中心だ。一つはドイツがナチス全盛時代だった頃の20センチフルレンジスピーカーを搭載した、当時のザクセンブルグ社が作った「オリンピア600」というその時代では高級分類に属していたラジオを使うことにする。最近、点検と掃除を済ませたばかりでよく復活を果たしている。これにはCDプレーヤーからの入力端子も作ってあるから、毎日3時間づつモノラル時代の再発CDを流すことでエイジングを重ねている。オリンピアは70年くらい前のビンテージラジオだ。先週麻布へ山田教授の新開発小型スピーカーを聞きに行ったとき、その脇に裸の20センチスピーカーがモノラルでセットされていた。それがまさしくオリンピアというラジオに搭載されたフィールド型スピーカーと同じものだった。山田教授と同じ学校の工学部のM先生が古いドイツラジオのマニアでザクセンブルグのユニットが大好きらしい。そんな奇縁がオーディオ革新思想者山田教授の部屋でもたらされたことも不思議だ。都心に住むM先生にも「アトリエ・モノラール」の部屋でこのラジオユニットの再生美音に接していただき、できたらビンテージドイツラジオ文化論のようなゼミナールを開いてほしいと夢想しているところである。

 

このラジオユニットを3週間に亘って聴いてきたが、好きなジャズソースでは音のボディや濁りが足りない印象がする。こちらの役としては凛とした古典音楽の小編成や声楽系のモノラルソースをかけるようにして、もう一つ在庫がある少し大きな1930年代のアメリカRCA社電畜箱にアメリカのジャンセン社製20センチスピーカーでも搭載して好きなジャズボーカルでも再生できたらと思っている。こちらは軽薄な思いつきで小型箱入りスピーカーをそのまま入れてモノラルアンプで鳴らしたことがあるのだが、箱同士が干渉しあって音がぼこぼこするという失敗をしたことがある。

復活したオリンピアラジオでこれはステレオ録音だが、かってのジャズサックス奏者清水靖晃がソロでサックスを吹くバッハの無伴奏チェロ組曲を今日も流す。組曲6番はイタリア・パドヴァにあるパパファーバという古い邸宅の収録場所だ。清水靖晃が心中の哀感を身をよじりながら絞りだす短かなアルマンドが流れ始めたころ、座間の旧同潤会風アパートの窓辺付近は粒子が細かい粉雪が一緒になって舞い始めている。