Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

冬の菫(すみれ)1 清水から松崎へ

2015-02-14 10:38:06 | 旅行

あわただしい冬の旅になった。清水、伊豆松崎、国府津という冬場にしては日溜まりの小さめな温もりを感じる場所が選ばれたことはいかにも如月らしい旅である。一行のDさんの誘いに乗って最初に目指す秘境地は静岡といってもほぼ身延山地に連なっている梅が島温泉の入り口にある温泉宿「くさぎり」だ。山家料理に凝っている民宿で炉端で炙るヤマメの塩焼きの味が忘れられない。

清水の新興蕎麦処「あさ乃」で昼食をとる。腰の強い飴色の手打ち蕎麦、安倍川源流域で獲れた生山葵を愛でていたら、清水市街地の雨脚は強くなっている。数10キロ奥地にある標高の高い場所にある「くさぎり」への細い崖沿いアクセスへの心配が本当になってしまった。

Dさんへ宿の主人から中止勧告の電話が入った。山の方では雪が降っていて翌日の凍結を考えると普通タイヤ仕様でやってきた我々のクルマでは無理という判断だ。数年前の同じ如月の同じ宿で味わった「掛け流し泉」「猪鍋」「川魚の囲炉裏焼き」の再現はここで潰えることになった。

そこで近場の公共温泉にでも立ち寄って散会というDさんの提案を一旦は受け入れてクルマを旧東海道沿いに東へと走らせる。その途中でいつも旅を優柔不断に外す悪癖をもっている自分のいい加減な直感が閃く。吝嗇(けち)なことでは自分に劣ることのない同行老人諸氏へ伊豆半島の松崎奥地「池代」集落近くに、質素な自家源泉湯治場があるからと提案してみた。

南伊豆で雪もないし、シーズンが外れているから急な予約は平気だろうとオプティミックな見通しを語って同意を得る。やはり直感どおり予約は取れた。素泊まり4100円、二部屋に分かれる雑魚寝だ。自分も含めた吝嗇老人蓮はこの値段にも大満足の表情になっている。夕刻の予約時間を目指して、途中の飲料、食糧調達もあることだから、途中脱線して寄ってみたい沼津のピュア純良カフェ「あずみ野」等もパスして一路、西海岸の山道を下田方面に向かうことにする。


信州即興旅 補足 水の風景

2014-08-28 20:05:47 | 旅行

白馬や仁科三湖あたりで遊んだことはあったが、安曇野付近、穂高、有明近辺は今回が初めての訪問になる。噂にきいていた「大王わさび農園」を流れる水の景色と対面できたのはこの夏ならではの収穫だ。付近にはアルプスの水を集めて流れる高瀬川が流れていて、「大王農園」の水車小屋付近を流れるとろりと流れる野川はその支流のようだ。

昔、渓流釣りで行ったことがある奥日光の湯川の表情と双壁に値する高原らしい水の表情だ。足を漬けてみるが水温は10度くらいだろう。冷たい!鱒や岩魚が飛び跳ねて喜びそうな清らかな水である。「大王農園」のわさび田の広いこと、実務だけに走らない趣の調度品も到るところにあって、この経営陣はわさび養殖を信州らしい文化事業にまで高めているようだ。

ここにある池を泳いでいる朱色変種の鱒はどこかで見た記憶がある。軽井沢の星野ホテルに近い塩壺温泉ホテルの庭池でみたことがあった。あちらのはもっと白色だったような記憶があるがさだかではない。塩壺温泉ではその鱒を使った洋風料理も出していた。近所にあった高輪美術館の裏庭を流れる急傾斜の無名川では岩魚を抜きあげて途中でバラすという愚を何度もしでかした。久しぶりの信州旅行、澄んだ空気、清冽な水、コクのある果物、野菜、浅間高原などで過ごした昔の真夏の片鱗をちょっぴり味わえたような気もする。


信州即興旅 其の3 戸隠から須坂、高山村

2014-08-24 20:26:45 | 旅行

戸隠の中社訪問は41年ぶりである。そのときは付近にある「小鳥が池」で持参の釣りざおで鮒釣りをした記憶がある。ミミズ餌を使ってウキ釣りをしたがウキ下の調整が図星だったせいか小型の真鮒が数十匹という入れ食いになった。こんな標高のある場所で真鮒釣りはないだろうと思ったが、入れ食いの楽しさにしばらくうつつをぬかしたものである。しかしこれは持って帰る魚ではないから、池に再放流して社員団体旅行からの一時的逸脱を楽しんだという想い出だ。そのときは池の周りを囲む明るい林では「ホトトギス」が鳴いていた。

 

今回は中社付近の横道を散策して掘辰夫、立原道造、等と並ぶ病弱・高原派の昭和10年代御三家抒情詩人、津村信夫の石碑なども初訪問する。石碑には津村信夫の戸隠を讃えるエッセイの一節が刻んである。内容は戸隠に長期滞在中の津村が地元の宿坊でいそいそと働いている乙女に年齢を尋ねる挿話だ。きっと津村好みの純情そうな美人だったのだろう。乙女の受け答えは二十歳を過ぎてからの女は年をとっていく時間が早いので教えることができないという含みに満ちたものである。津村信夫はこういうさりげない会話の隙間にも戸隠の抒情を見出していて、乙女の挙措も戸隠の花鳥・風物と等価な風景画に仕上げているのだと、その雨の雫を光らせている夏草に覆われた石碑を眺めながら思った。飯綱から戸隠への舗装された快適道路の山間には「戸隠古道」というガイダンス看板をよく見かた。いつか歩いてみたいよい表情の高原の道だ。

それにしても中社入り口にある「鶉(うづら)屋」という戸隠名物の蕎麦店の繁盛ぶりに驚く。店前は長蛇の予約客だ。まだ昼になっていないのに、予約分で品切れとのことで諦めて付近の普通店で天ざるを食べる。注文を受けてから仕上げるという誠実な手打ち蕎麦だ。普通に美味い信州蕎麦である。どこかでいまや蕎麦は信州名物ではなく東京名物という皮肉を聞いたことがあるが、今回もやはりその思いを強くする。

付近にあるコッテージ風のカフェ、「十輪」でコーヒーを飲んでから山田温泉のある須坂市の奥地高山村に向かう。戸隠バードライン、長野市内、国道18号というルートだ。果物の街須坂市の郊外から万座や草津へ抜ける山道があることを初めて知った。やはり古い話だが信越本線の上野発夜行列車で南志賀の山田牧場付近をハイキングしたことがあった。その時の記憶があって、今回はそのぼやけた記憶をほぐす為の須坂行だ。松代、真田を巡る前に寄ったことのある公衆浴場風の源泉掛け流し温泉がどこだったかのかを確認してみたい。

須坂市内に入って地元スーパー「ツルヤ」で「ワッサクイーン」という硬くて果肉の鮮やかなネクタリンと普通桃の掛け合わせ品種を買う。信州では常識の各種「おやき」も見つけた。これを持って記憶の立ち寄り温泉を目指す。高山村には「子安温泉」や「山田温泉」があってさらに山道を登ると「五色温泉」「七味温泉」等の山間の宿が点在する。今回訪ねてみて記憶の温泉は「山田温泉」の「大湯」ということがわかった。建物は改装されているが勢いに満ちた高温の硫黄泉と浴槽に浮かぶ湯の華が当時のままである。当時はあったのか想い出せないが外の休憩スペースには足湯などのブースもあって訪問するお客もけっこう多い。ぬるま湯の浴槽と高温の浴槽へ入れ替わり浸かる近在爺さんの湯治気分だ。

しばし温泉に浸かって休憩所では「ワッサ・クイーン」を丸かじりしたり「おやき」の茄子、玉ねぎ入り等を賞味する。1個200円で買った「ワッサ・クイーン」はリンゴと並ぶ須坂地方特産の新顔桃だが、関東地方ではお目にかからない珍種だ。ネクタリンの酸味と桃の甘みがバランスよく硬い果肉に納まっている。こうした果実が林檎園と共存してたわわに実っている須坂の明るい田舎道のファンになってしまった。夕闇が迫ってきて当日の宿が近在でとれないようなら深夜にかけて甲州路経由で座間へ戻るつもりもあってクルマを上田方面に走らせることになった。


信州即興旅其の2 善光寺、飯綱高原

2014-08-22 19:00:55 | 旅行

信濃大町から長野へ抜ける県道を気の良い信濃大町JR駅員に教わって闇の峠道をひたすらに走る。闇また闇の数十キロだ。一度「塩の道」という別称の糸魚川・白馬村へ向かう国道を走るが、途中「仁科三湖」近くを山間部の美麻村というその名も信州的に「美しい村」を東に折れて中条村などを経由して長野市街地へと向かう。昼間、走っていたら、やはり若年期に交友があった都下ひばりが丘のN氏が美麻村に住んでいて創作家具職人になっているという噂を聞いたことを思い出し捜しだしていたことだろう。夜道では右も左も見当がつかない。街の明かりが恋しくなる。昼間だったらきっと新鮮野菜や果実が満載の素朴な「道の駅」等も数か所はある筈だ。長野市へ注ぐ犀川が大川の趣をもって蛇行する景色も残念ながら闇に溶けてしまっている。

なんとか市中へ滑り込んでも8月15日は全てNGの臨時宿泊施設だったが、更埴方面にむかう辺鄙なバイパス沿いにてやっと確保する。素泊まり6000円也。旧盆のさなかにいい加減な旅をしているが、これは厳密規格で生きている妻や恋人等を同伴していたらきっと口論になっているな!と反面でホッとする。疲労のせいか静かなビジネスホテルにて熟睡の朝はコーヒータイムを終えて長野市の臍である善光寺をめざす。

昔はこういう大きなお寺さんのバロック趣味を敬遠する心性だったが今は違う。日本宗教の総合百貨店だけに方々からやってくる参拝客を包容する力を感じる面白い聖域だ。長野市街へ南に向かって緩やかに傾斜する参道の遠景これが長野市を美しい街にシェイプしているようだ。護摩を浴びる小学少年・少女のまぶしい夏の風景もいいものである。参拝者の群れに交じって本堂地下にある「お戒壇めぐり」までしてしまう。「極楽の錠前」に触れて未公開の本尊秘仏と縁を結ぶという闇伝いのイニシエーションである。あまりの暗闇に当惑するも、「お戒壇」入り口に祀ってある仏舎利塔の中の「釈迦像」が素晴らしい。タイ王朝の寄進になる17世紀スコタイ期の優美な小ぶりな仏像のフォルムに感激する。「ご本尊秘仏」に出会えなくともこれと巡りあえる500円拝観料の立派な対価になった。

何度か道を間違えて善光寺の周りを巡ってから上松経由で飯綱・戸隠高原に向かう。雨混じりながら気ぜわしないループルートの苦労もあってやっと信州らしい真夏に対面する。峠の途中にある農産物直売所が当たり場所だった。お百姓の爺さん婆さんが当番制でお店番している。愛想もなにもないが質問への答えは信州的に誠実で実直だ。ここで朝獲りの玉蜀黍、小豆、早生リンゴの「夏明かり」等を購入する。

試食用の胡瓜の浅漬け、リンゴのシロップ煮などの美味いこと。向かいに群生しているオレンジ色の花を尋ねたら「花豆」という答えが返ってきた。あの大粒なチョコレート色した豆である。大好物だが収穫は秋のようだ。飯綱温泉等の表記に途中魅せられるが、戸隠バードラインとの合流点になるおおきな「大座法師池」を目指す。どうやら雨は本降りになってきて雨の戸隠もいいものと思いながらクルマを進める。

 


信州即興旅 其の①富士見駅付近

2014-08-18 19:47:48 | 旅行

13日に旧友たちと都心でおしゃべりしたあと、深夜日付が変わるころ座間から信州へと向かう。国道246号、秦野中井インター、御殿場までは主義に反して東名高速道も併用する。時間短縮の為のやむなき手段だ。足柄SAは午前の一時でも超満員、レジャーや帰省する人々の仮眠休憩のクルマでごったがえしている。旧盆にかかわるようなクルマ旅は初めてのことだ。ここでコーヒーを飲んで眠気を飛ばす。

信州への二日間の最初の寄り道場所は茅野や諏訪にも近い富士見高原とする。1990年代までは甲府にある「アローン」というジャズバーの野口さんと組んで八ヶ岳のジャズフェスティバルに関係していたことがある。小淵沢インターから近い公園のような草原のようでもある広場の野外ライブにはピットイン系のジャズマンが沢山出演していた。アメリカ帰りの大西順子の演奏を初めて聞いたのもこのフェスティバルだった。フェスティバルの前後に寄り道した場所には原村、清里、大泉等があって鱒釣りやハイキングも楽しめた。

しかし尾崎喜八等の詩作に登場する富士見高原は永いあいだ憧れの土地だったが立ち寄る機会はなかった。御殿場インター、須走、篭坂峠、山中湖、河口湖、御坂峠、御坂トンネル、ヘヤピンカーブが続く深夜の道では睡魔には襲われる閑もない。途中、闇の中の道路際で計三匹の鹿を目撃する。猿は寝ているが鹿は起きている。鹿は夜行性動物ということを再認識する光景だ。河口湖付近の「セブンイレブン」では夜行性若者のクルマに混じって2時間ほど仮眠する。駄菓子やコーヒーを買っているから店員も文句は言ってこない。持参のコールマン製羽毛寝袋の出番だ。仮眠後は夜も白み始める御坂の長い下り坂を一気に下って旬が終わりかけている一宮近辺の桃林の淵でその香りをたっぷりと吸い込むことで夜明け時間を過ごす。甲府から韮崎までの国道20号は生憎の小雨に霞んで左前方に連なっている南アルプスが拝めない。残念だが韮崎をすぎると豊饒な真夏の田舎道が白州にかけて広がってそのニュアンスが豊かな緑のある景色はどこまでもあきることがない。

富士見の手前には白州や上蔦木という集落があって付近の山村から集まってくる野菜や食材の「道の駅」がある。ジャージー種の乳牛から搾ったアイスクリーム、都会には出回ることもない硬い皮が特徴の桃、大粒のブラックベリーをつまんでから憧れの富士見駅へ向かう。小雨に煙る木造建築の駅舎は四季派の詩人に愛されてきた抒情の風格である。標高950メートル、明治37年には飯田町(今の飯田橋)始発の官鉄中央線の終点がこの富士見駅だったと駅舎の説明板に記されている。白樺の梢、旅人を送迎する向日葵、駅前の花壇には百合の香りがむせている。気温は23度、蒸し暑い関東の都市では信じられない冷涼な空気だ。

駅舎の待合室に接している蕎麦屋があってこれもJR東日本がやっている人を食っているような蕎麦屋かと疑わしかったが、どうも経営はちがうようだ。「かけ蕎麦」が280円、この熱い汁蕎麦に舞茸の天ぷらをトッピングしてもらう。太めの二八蕎麦は香りも腰もあってJR蕎麦チェーンの味とは高原の空気もプラスして格段の差を感じる。

満腹後は昔の結核療養所だった病院を眺めて駅付近を散策する。小雨が降ったりやんだりの入笠山牧場の裾野にある武智温泉で疲れをとろうと寄ってみたがなぜか休業している。そこで次の目的地松本・安曇野へ行く前に、富士見の福祉施設兼用温泉にて入浴休憩をとる。単純硫黄泉のかけ流し、地域外の客は時間制限もなく600円の入浴料だ。こんこんと湧きだす浴槽を独占できる喜び、入浴後も畳部屋で寝転ぶこともできた。ここから茅野、諏訪、塩尻、松本というコースは信州の即興旅のメインディッシュみたいなものである。