Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

2018 年の瀬の消息

2018-12-31 16:04:57 | ラジオ亭便り
ネットで魅せられた1950年代、米RCA製真空管小型ラジオが大晦日に届いた。ジャンク品の出品を日頃検索で依存しているS女史が偶然見つけてくれた可愛らしさに魅せられて格安で入手した。購入価格以上の手入れ料が嵩むのが予想されるが、本牧に住む真空管ラジオエキスパート壮年のYさんが趣味的情熱でやってくれそうなので、ブルーツース用入力端子でも付けてラジオが生誕した頃のボーカリストの歌をしみじみと楽しめたらと願っている。裏蓋のスペックによれば再生のレンジの狭い事、540から1600ヘルツというナロウレンジである。

ほぼ人声だけの用途だがこれで落胆する方は失礼ながら、人生もオーディオも未だ青二才の域をでない方だと思う。このレンジスペックからあのモニカルイス、バーバラリー、テディキングの声色が憂いとかコケトリーを微細に含んで具象的に浮かび上がる方はジャズを通じた人生の心のチューニングに長けた人だと思う。私も後者を目指して四苦八苦しながら2018年を何とか乗り切ろうと大晦日の夕暮れを揺蕩っている。
ここ数日、人づてに聞いて哀感を覚えた消息がある。専修大書房をしていたオーディオの先輩、日置さん、南房総は館山のアンプ自作家の佐久間さん、横浜は磯子奥、洋光台で「MUSA」というカフェをしていた萩原さん、日置さんの12月28日以外はいつ逝去された事かわからないが、それぞれの表情や声、仕草を思い出すだけにやはり寂しい気分が漂ってくる。

萩原さんは横浜の若葉町にあった「ダウンビート」の常連顔なじみ。千葉の佐久間さんは過去に5回くらい訪問してその唯我独尊的一途なサウンドに接した方。日置さんはオーディオ的融通を精神面でも機材でもよく啓示させていただいた方だった。形而下的なトラブルが晩年は多くそうしたストレスがあのエゴサントリックな精神と身体の病魔として病を内閉化させたのではないか?というのが私の悲しい憶測である。萩原さん、佐久間さんは冗談や皮肉を投げ合う関係と言えるほどの付き合いがなかった。

しかし日置さんはこの2年間以外コンスタントに情報交換を重ねて学ぶことも多かっただけに、あの静かな語り口がもうこの世では聞くことができないというのはとても残念で悲しい。十数年前の初夏の夕暮れだった。私の好きなピートマリンベルニのピアノトリオ盤の新譜がディスクユニオンで売られていた。「the Tempest 」というタイトルの 好きなスタンダード曲を満載しているCDだ。この中の7トラック目の曲「my ideal」に惹かれた自分はこれを日置さんに聞かせようと向ケ丘遊園の丘にある書房を訪ねて行った。教科書販売のピークが過ぎて少し余裕ができた夕暮れに販売所の開け放しデッキでそのCDをかけて貰う。どんな俄か風仮設ラインナップ的システムでも音楽を柔らかく再生させることが特技な日置さんによってピートマリンベルニの曲が暮色に立ち込めるという至福時間である。無論、音量的には近所迷惑にならないというレベルだ。

そこへ日置さんの知っている大学職員の中年女性が退勤途中に通りかかった。日置さんに向かって彼女は「こんなに麗しいジャズ曲があるんですね。驚きました」と呟いて去って行った。日置さんは無駄口をしない方なので「良いでしょう」と静かに応えていたが、その笑顔は自転車操業気味な日々の彼にとってもやはり心の贅沢が訪れた一瞬なのだと、自分にも幸福感のさざ波が共有してくるようで嬉しかった。
営業 1月2日 営業 13時〜18時甘酒サービス 1月5日 6日 臨時休業日

ラフな燻製講座の出来栄え

2018-12-23 14:29:43 | ラジオ亭便り
元在籍していた公的施設のアルバイト先は各種の市民催事を季節ごとに行なっている。初秋の頃にそこのイベント立案女子から、「正月のお節の脇役にもなるような簡単な燻製作りの講座をしてみませんか?」と打診された。何かの雑談の折に渓流魚の虹鱒燻製を作った体験を話ししたことを覚えていたらしい。一瞬迷ったが引き受けてみた。どこの家庭にもあるフライパンやステンレスボウルなどを容器にするアバウトな燻製作りである。

少々の頓挫も楽しめれば良いと思ったからだ。用意したものはカセットコンロ4台、廃棄しても構わない各家庭の中華鍋、フライパンの類である。燃焼材料は桜の木のチップ、ザラメ砂糖、各種燻製向き食材は、立案女子と打ち合わせして決める。

16日までに準備できた食材は6パック容器に入っている熱処理済みチーズ、本牧通り裏手にある地物魚が中心の「久源」魚店にて下干しを頼んだ真鯖の切身、ゆで卵の調味漬け、通称「いぶりがっこ」用沢庵漬け、アーモンドナッツ、ロングウインナーが当日までに揃えられた。講座参加者は12名。女性が10、男性が2という割合だ。燻しの本番に入る前に、「この燻製講座は凝り過ぎない道具で簡単にスモークを楽しむことが趣旨なので黒焦げになって食べられない状態以外は成功としましょうね」と念押しをしていた。

各食材の燻し時間の長短はあるものの準備に手間がかかったものが、卵の味付け処理とたくあんの水分抜きだった。たくあんの水分抜きは立案女子が助けてくれてことなきを得た。食材によってチームを分けて唯一の失敗はクッキングシートを敷かない為にプロセスチーズが溶けてしまったが、これは2回目に形も崩れないスモークカラーになって雪辱できた。

鯖は生焼けに注意しながら燻製時間に気を使って香ばしい鯖のうま味が現れてこれは参加者にも喜ばれた。燻したたくあんにクリームチーズを少しトッピングしたものと味付け卵も概ね好評だった。次回は春先にベーコン、蛸、イカにも挑戦しようということで無事にアバウトな燻製講座はことなきを得ることができた。

年末年始の営業ご案内 12月29 30 31日 営業してます。大晦日は23時迄 1月5 6日の土日は休業します。

寺島靖国との靴談義の余話ー横浜ラジオ亭篇2

2018-12-03 09:02:03 | ラジオ亭便り
24日の土曜日は、元町中華街駅の改札口で寺島靖国さんと合流する。その2日前には昔のバンドホテルの跡地にあった「ドンキホーテ」が大型メガ店舗に変身したばかりで、元町付近は大混雑しているが待ち合わせには細心な寺島さんは約束時間よりも前に到着していたらしい。1時間前から付近の空気を嗅いでいたらしく開口のセリフは自分が住む地元の吉祥寺よりも街の品格がはるかに格上と強調している。この日の予定は元町から近い麦田町のラジオ亭への初訪問。時間が余れば近隣のシニア世代が出入りするジャズ喫茶店にも寄ることにした。そして最後は中華街で食事でもしようという予定になっている。元町商店街の裏通りには代官坂、汐汲坂といった山手の丘へ通じる坂道がある。その辺りの小さめな物販店、飲食、カフェの類は気の利いている佇まいがするから麦田町への徒歩行が退屈しないと読んで歩き始める。

先日来、盛んに「脱力」呼吸法を説いて私にも勧めている寺島さんが歩き始めにその意義を語る。心臓の血管を萎縮させない有酸素運動に通じるものがあるらしい。ああ!これは神経過敏で不眠症が常態で苛立ちやすいご自身への「言い聞かせ」なんだと合点が行く。私などは自力的零細事業を畳んでからの10年は「脱力」と「無力」の間を彷徨っているようなもの。レスターヤングが倦怠の濃霧を漂わせながらズルズルッと吹くスタンダード曲「水辺に佇み」みたいなジャズ心の在り方こそが我が晩期「脱力風無力」人生の最良な点滴剤と思っている。 途中の元町商店街の裏通りをぶらつきながら寺島さんの「脱力」寄り道に付き合う。

1軒目は「RASOX」という靴下専門ショップ、2軒目はその近くにあるビル エバンスとの共演で名高いジャズフルート奏者、ジェレミー スタイグの描いた絵画展示と軽めな再生でジャズを流しているラジオ亭のお客さんから知った店「JEREMY'S」カフェ&ギャラリーに寄ってみる。
寺島さんの靴下ショップの買い方は傑作だった。歩いていてウインドウにディスプレイされた男子用靴下を一瞥すると突然「これ買う」と言って店内へつかつかと入って行き、店員さんと二言三言の会話。カジュアルな左右デザインが異なる靴下で柄の配色は大胆で生地はしっかりして履き心地が良さそう。先日の吉祥寺で履いていた木綿生地とゴムのズック靴の背景に合点が行く。奥さんの宛行扶持で服飾小物でも甘んじている6〜80代老人との主体性の違いは歴然としている。年を重ねても色気を喪失しない人生の愉楽を感じるシーンだ。私などもばーんと二足で3700円の靴下を買って意気軒昂となりたい気持ちはあっても、3足1000円の靴下に甘んじる現実にいつも寄り切られているわけだ。


次に寄り道した店が「JEREMY'S」。シンプルなコンクリート壁にジェレミー スタイグが残したエスキース風の彩色画が所狭しと陳列されている。いわゆるジャズ喫茶風同調圧力が迫って来ないよい空間である。スピーカーはごくミニマムな北欧辺りのスキャンスピークスクラスの小物だが、BOSE101じゃないところにさりげないセンスを感じる。ジョン コルトレーンがアトランティックレコードに在籍して徐々にジャズメロディを抽象的に細分化した頃のスタンダード曲が微かに流れて、これがジェレミー スタイグの下手なようで線描に躍動感を感じるデフォルメ絵画に溶け込んでいる室内景色が良い。店を出てラジオ亭までの5分間はお互いに俗情へのセンサーが過敏な両人による魅力的女性経営者への肯定感溢れる品評となったがこれは省略することに。

営業ご案内 8日(土) 臨時休業 15日(土)16時から営業 16日(日)中本牧コミュニティハウス講座「かんたん燻製作り」開講の為臨時休業